商人との仕事 ページ16
「いやー。グリムのおかげで助かったわ」
そういって兄さんは紫色のスカーフを外して冷や汗を拭う
彼はいつもそれを身に着けていて、外した姿をグリムが見るのは初めてだ
取引の仕事をしているときの兄さんは柔らかい笑みを浮かべ、思惑を悟られないようにしていた
並大抵の集中力と根気強さではできない仕事をやってのけたのだ
「お疲れさまでした。何かお飲み物を飲まれますか？」
グリムはそう言って表情筋を休ませた
グリムは兄さんの取引に参加している間、ニコニコとそれこそ普段は見せないような、
とびきりの笑顔(？)でいたからだ
今回の取引先の国は我々国よりも立場が低い国だったが、国王がわがままなことで有名である
グルッペンとは正反対に位置するような悪い意味での傲慢さ、狂気を含まない幼さはまるで子供の様
「水でええか？グリムも飲むやろ」
しかし、女であるグリムがいるなら話は別だ
女性に対しては普段とは比較にならないほどの紳士ぶりを見せようとするのだ
もちろん、普段からそのようにしていないのがバレバレではあったが
「お言葉に甘えて」
兄さんはその国とは二回目の対談だったので、グリムがいてとても助かったそうだ
焼けるように熱かった喉に、冷たい水を流し込む
(私の人生の中でこれほどまでに水がおいしいと思ったことは無いな)
兄さんの分も渡して、グリムはそんなことを考えた
「ありがとう。こっちも気分が悪いわ」
兄さんがそういって顔をしかめる
グリムは苦笑いを零したが、否定はしない
苛立っているのは同じであったからだ
「グリムに色目使いやがって」
「へ？」
兄さんはグリムに近づき、手を握った
「大丈夫やったか？怖くなかった？俺が連れてこんければ…」
グリムは脳をフル回転させる
兄さんはしょんぼりとした顔をして、グリムを心配そうに見つめる
「あ、あの。てっきり私は国王が失礼な態度をとっていたから怒っていられるのかと…
私は大丈夫ですよ？」
「ホンマ？大丈夫なん？」
兄さんは確認するように顔を覗き込む
綺麗な紫の瞳がグリムをとらえる
グリムは恥ずかしさで目をそらし、顔を赤く染める
「あの、恥ずかしいので離れてくれませんか？」
グリムが言えば兄さんは心配そうな顔から、悪だくみをしたような顔になった
どこかの戦争狂と同じ顔だ
「いやや…もっと、近づきたい」
「っ！もう帰りますよ！」
兄さんを押しのけ、真っ赤な顔を隠しながらグリムは帰り道を急いだ
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