Episode3 ページ4
「うわ〜いい香りです!」
「ミルクと砂糖も用意した。必要に応じて入れてみるといい」
「いただきま〜す!」
団員を集め、珈琲を飲む。自らもカップを手に取り、飲む。初めて飲んだあの味は、いまだに再現できていない。
「はぁ…やっぱり、あいつがいれたのがいいな」
「え?Aさんの珈琲おいしいですよ?」
「あぁ、すまない。独り言だ。団長。少しの間留守にする。力が戻ったか確かめたいんだ」
「もう傷はいいの?」
「多少は残るが…急ぎなんだ」
「そう?バルツにいると思うからまた声かけてね」
「わかった」
「あ、あの!珈琲ありがとうございます!」
「…あぁ。こちらこそ。夕飯を食べたら発つよ」
そこからは和気あいあいと話し、空を渡る風を感じながら夜を迎える。食事を済ませたAは甲板で一人たたずんでいた。
(誰もいない、か)
ゆっくりと縁へと歩み寄り、そして飛び降りる。自由落下をするのは以前と変わらないが、変わったのは真下が空の底であることと、自らの背には翼があること。数日で治った傷は、いまだに若干痛むが、これ以上は主に心配をかけるため休んではいられない。
(もう、あの人間ともしばらくは会わないだろう。早く、戻ろう)
警戒しながら飛び立ち、無機質な世界へと降り立つ。
「…Aか」
「いらしていたんですか。ちょうど頼まれていたものをお持ちしました」
「ありがとう。けがをしたようだが…」
「大丈夫です。すみません、また力を任せてしまって」
「仕方ない。君がこうして空を渡れるのも力がないときだけだ。さぁ、久しぶりに珈琲を飲もうか。今日は私が淹れよう」
「い、いや!僕がやりますよ」
「たまには、やらせてくれないか」
「…ありがとうございます」
目の前の男に一礼をする。人間界で過ごすにあたり、羽を隠していたせいもあって体が重い。男のあとについていくと、赤色の羽をはやした女性が男に駆け寄ってきた。
「天司長、パンデモニウムの鳴動がはじまりました」
「そうか」
「とうとう…」
「…Aか。貴様、特異点と接触したであろう」
「やっぱり、あれが特異点か」
「貴様も知っておろう。軽々しい行動を慎め」
「わかってる。ミカエル、あとで僕がパンデモニウムへ向かう。完全に動かすのを止めるのは無理でも、抑え込むことぐらいはできる」
「…そのケガをした状態でか・行くのであればガブリエルのもとへ行け。では、天司長。失礼します」
「あぁ、ご苦労」
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作者名:御煉 | 作成日時:2019年3月3日 20時