Episode29 ページ30
「お前は、なんでそこまで明るくいられるのかと思ってな」
「…そうか、知らないんだ。僕は昔…そうだな…四大天使と同時に作られたんだけど、その頃は感情なんかなかった。失敗作といわれ続け、破棄寸前で自暴自棄になっていたとき、ルシフェル様がお前のところに連れてきたんだ。役割がないと嘆くお前の相談に乗ってやるために、って。けど、僕は…本当はずっと役割を知ってた」
「…なるほどね」
「サンダルフォンが、ずっと笑っていられるならせめて…僕の羽を組み込んでサンダルフォンは完成するはずだった。そこで僕の自我は完全になくなり、君は正式に役割のある天司になるはずだった…天司長の直属の補佐官として、進化を司るために」
「俺が…役割を…?」
「けど、叛乱がおきてその役目は一時的に僕のものになった。パンデモニウムにいられるのも、ほかの元素を司れるのも…それが全てさ」
Aの話に、サンダルフォンは声を出せずにいた。だが、根本的な質問の答えになっていないと思いなおす。
「…質問の答えになっていないようだが?」
「そうだったか?ようは、お前といる時間が楽しかったんだよ。役割とかそんなの気にせずに、ただ珈琲を飲んで過ごせたあの時間が…僕はとても幸せだった。はじめて飲ませたときに強がって飲んでいたことも、ルシフェル様に飲ませたくて練習したことも…すべては、僕がルシフェル様に届けたことが始まりだった」
「…みてたのか」
「そりゃ…まぁ」
「くそ…」
「うれしかった…僕が初めて役に立った気がした。失敗作でも、できることはあると…」
Aの言葉の重さに、ついサンダルフォンは顔を上げる。
「…だから、僕に役割を与えたのは…お前だ、サンダルフォン」
「フン…本当に、物好きだ…A、本当に出ないのか」
「まぁ、僕の意志では。サンダルフォンが出ないならね」
「特異点がきてもか」
「当然」
「ルシフェル様に呼ばれてもか」
「あぁ」
「…そうか」
それだけいうと、サンダルフォンは赤い実を一つ口に運ぶ。一瞬顔をゆがめるが、すぐに表情を戻す。
「君も食べてみるといい」
「あぁ、そうするよ」
一つ実を食べると、珈琲からは想像つかないほどさわやかな酸味が広がる。その後、ほのかに香るフルーティーさに目を閉じる。
「ここでゆっくりと償おう」
「君はいる必要ないんだぞ」
「一緒に…二人なら、できると思わないか?」
「フン…いいだろう」
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作者名:御煉 | 作成日時:2019年3月3日 20時