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「わざわざありがとう。」
マンションの前に着くと、彼女は俺の方をゆっくりと振り返ってそう言った。
その声色は淡白でどこか冷たい。
表情も冷めていた。
「…ごめん。送ったの迷惑やった？」
せやけどやっぱり、彼女がただ気まぐれで気分屋やからこんな態度を取るようにも思われへんくて。
彼女の機嫌を損ねたのだとしたら、多分、俺が半ば強引に家まで送ってしまったことが原因だと、これまでの流れを思い出して控えめにそう聞いてみると、
彼女は苦いものでも食べたように顔を歪めた。
「ごめんなさい。大倉くんは…何も、悪くないから。」
言葉と言葉の間が、ぶつりぶつりと途切れる。
「…ちょっと、久しぶりにお酒飲みすぎちゃって、自分でもよく分からなくなっちゃっただけ。」
彼女はうつむき数秒間自分の額を指先で押さえると、「ごめん、酔っ払って。」と俺を見上げ困ったように笑った。
「じゃあ、今日はありがとう。楽しかった。…また明日会社で。」
そう言ってマンションの中に入ってこうとした彼女の腕を俺は咄嗟に掴んでいた。
「山田さん」
言葉より先に、身体が動いていた。それはとても無意識に。
俺の手に引き止められた彼女は戸惑った顔で俺を見上げる。
「どうしたの？」
警戒するような表情に、俺はそっと彼女の腕を解放してなるべく落ち着いたような声を出した。
「なんかあったら話とかいつでも聞くから。」
今の俺にはそう言うのが精一杯で。
今はまだ『その時』とちゃうって思うから。
「…なんか？」
彼女は首を小さくかしげると、
「なんにもないよ。」
ふっと笑う。
「…また誘ってもいい？」
と尋ねると、
「うーん。それはどうだろう。」
悪戯な笑みを浮かべる。
この日の彼女がどことなくいつもと違って、いつも以上に陰のようなものか見えたのは明らかで、
それが気分屋なだけだからでも、酔っ払っただけでもないことも、分かってた。
それでも俺にはさっぱり分からなかった。
彼女が何を考えて、何を抱えていて、俺のことをどう思っているのか。
彼女が言う、彼女の欠陥が一体何なのか。
分からなかったけど。
もうとっくに彼女を好きになってしまっていた。
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蒼 夢見子(プロフ) - 茜音さん» 茜音様、初めまして。有難いお言葉に胸が熱くなりました…後先考えずにがむしゃらに書いてしまった荒すぎる出来の中でふたりの互いに想い合う気持ちは一番慎重に書いたのでそう言っていただけてとても嬉しいです！こちらこそ読んでくださりありがとうございました^^ (2018年11月10日 23時) (
レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
茜音(プロフ) - はじめまして。あまりにも続きが気になって一気に読ませて頂きました。描写はもちろん、ヒロインと大倉くんのお互いを想う切実さが綺麗で、思わず息が詰まりました。とっても素敵なお話をありがとうございました。 (2018年11月9日 15時) (レス) id: c4843d23a9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2018年8月7日 18時
