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ヤスが続けて話したことは、こうやった。
そもそも市瀬さんは印刷の部数を間違えたどころか、前日からきちんと頼まれていた資料の印刷を忘れていた。
確かにそのことについて山田さんは市瀬さんを注意したけど、斎藤さんが「俺だったらもっと強く叱ってる」と思う程度の注意だった。
『いい加減にして』も『迷惑になるから仕事を辞めた方がいい』も山田さんはそんなこと一言も言うてへん。
そして斉藤さん曰く、市瀬さんは入社当初からミスが多いし、そのくせに少し注意するとすぐ泣くし勝手に話を盛って人に話す、と。
市瀬さんは新入社員の中でも飛び抜けて美人やから上からも何かと許されてきたけど、仕事のミスだけは困る、と斎藤さんも頭を抱えてたらしい。
ヤスは「ほんま、困った子もおるもんやなぁ」と眉毛を下げ、また蕎麦をすする。
俺はもう、さっきまでの食欲なんてどっかいってもうて、ただワサビの溶けたつゆをぼうっと見つめることしかできひんかった。
つまり、俺はあの子らの言うことを鵜呑みにして、それが嘘やとも知らずに山田さんにあんな偉そうな忠告をしてもうたってことやろ？
あの忠告やってあの時の一時期的な自分の感情に便乗して力任せに言うた節があるし、
だからあの時山田さんは少し不思議そうな顔をしてたのかと今更分かってももう遅い。
そもそも、ちょっと感じ悪くされたくらいで腹を立てるのも男としてどうなんって。
ああ、もう。最悪や。
「どないしたん？食べへんの？」
ヤスが首を傾げて俺を見る。
胃がキリキリと痛んだ。
いつも俺は選択を間違って後悔をしてきた。
もっと早く好きやって言えばよかったのに言わんかったから、最後にちゃんと想いを伝えれば良かったのたそれもせえへんかったから。
――せやから、俺は今もこんなに苦しい。
今俺が迫られてる選択は――。
「ごめんヤス。ちょっと用事思い出したわ。」
手付かずの蕎麦を残し立ち上がると、財布から千円札を出してヤスの目の前に置いた。
「え、用事って、」
「悪いけどこれで払っといて。」
蕎麦を口から垂らしたまま目を丸くして俺を見上げるヤスを置いて、財布をポケットにしまい、店から出る。
外はやっぱり暑くて、俺は太陽から逃げるように早足で歩いた。
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蒼 夢見子(プロフ) - 茜音さん» 茜音様、初めまして。有難いお言葉に胸が熱くなりました…後先考えずにがむしゃらに書いてしまった荒すぎる出来の中でふたりの互いに想い合う気持ちは一番慎重に書いたのでそう言っていただけてとても嬉しいです！こちらこそ読んでくださりありがとうございました^^ (2018年11月10日 23時) (
レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
茜音(プロフ) - はじめまして。あまりにも続きが気になって一気に読ませて頂きました。描写はもちろん、ヒロインと大倉くんのお互いを想う切実さが綺麗で、思わず息が詰まりました。とっても素敵なお話をありがとうございました。 (2018年11月9日 15時) (レス) id: c4843d23a9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蒼 夢見子
| 作成日時：2018年8月7日 18時
