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「あいつだ。あいつと同じ顔だ」
大野の顔はこわばっている。
「あいつって、まさか」
櫻井も顔を見てピンと来た。
目元が大野と似ているのだ。
となると。
「大野くんのお兄さん？」
えっ、と思わず息を呑んだ相葉と松本。
「大野さん、お兄さんがいたの？」
苦い顔で頷く大野。
「俺の兄も部隊にいたんだよ。もう十年……いや、十五年くらい前に死んでるんだけど」
ただ、とアンドロイドの顔を見上げる。
この顔は、大野の記憶の中にある兄の顔よりも老けている。
もしかしたら。
「死んでなかったのかもしれないな」
不自然なほどに部隊の記録から消された兄。
現場で仲間から殺されたとされ、殉職扱いにもならなかった。
多くの人から恨まれているからそんな扱いを受けたのだと思っていたが、その理由が本当は死んでいなかったからだとしたら。
「死体の確認は？」
「してないんだよ。現場で殺されたっていうから」
ああ、と相葉も頷く。
「現場で死んだ人は置いたままにするもんね。確認のしようがないよ」
部隊では死者の回収は行なっていない。
部隊とは別の、国が関わっている他の組織があるのだ。
そちらに処理は丸投げするし、その組織の人間は部隊の人間のことなんて知る由もない。
だからこそ、部隊の人間が「班員は現場で死んだ」と報告をすれば、その現場に出ていない人間はその言葉を信じるしかない。
死を偽装することもしようと思えば簡単にできる。
部隊の人間が撤収したあと、他の組織の人間が来るまでの間に現場から離れればいいのだ。
「お兄さんが生きてたらどうなの？」
「……かなり厄介。死んだはずの人間が生きてたってだけでも面倒なのに、その人間があいつだとしたらなおさら。しかもよりによってスピリットと関わってるなんてなったら」
大野は唇を噛む。
巻き込まれることは避けられなくなる。
まったく知らなかったとしても、その言葉がどこまで通用するかも分からない。
「すでにここでアンドロイドが見つかってる時点でもう厄介なんだよ。雹隊の人間がスピリットに関わってたことが判明した。スピリットは身内がやらかした世界規模の問題ってことになる。その身内の中の一人が、俺の本当の身内……血縁関係のある兄だったとしたら、どうなる？」
大野の言葉に苦い顔になった松本。
「大野さんも責任追及されること間違いなし、だね」
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作者名：翠霞チサ
| 作成日時：2023年2月18日 23時
