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「え？ 何で江藤さんって」
ひら、と手に持っていた紙を持ち上げた二宮。
それは手書きで書かれたパスワードの文字列。
「この字に見覚えがあるのよ。そんな相手なんて限られてるし」
「江藤さんが非戦闘員長だったから？」
「そう。相当手書きのメモを受け取ってるからね。字も分かる」
パソコンを操作していた二宮が、ひとつ舌打ちをした。
「これはまずいな」
二宮の言葉に、櫻井もパソコンの画面を覗き込む。
並んでいるファイルの名前だけでも分かる。
雹隊だけではなく、陸上部隊全体に関わる情報が事細かく分類されている。
「機密情報の管理問題とかそういう次元でもないよね、これ」
「ファイルの名前が嘘であってほしいと思うけど」
そう言いながら一つのファイルをクリックした二宮は、そのまま頭を抱えた。
それは、雹隊の特殊戦闘員の個人情報が載っているリストだった。
「このコンピュータはネットに接続されてるよな……なんてことを」
部隊の人間の個人情報など、機密情報の中でも漏洩したらかなりまずいものだ。
それが特に、雹隊の特殊戦闘員のものともなれば。
「特殊戦闘員の情報が漏れてたとしたら、その漏洩経路が分かったね」
櫻井の苦々しげな声に、二宮も苦笑する。
探す手間が省けたのは良かったのか悪かったのか。
「こんなのはネットに接続されてないコンピュータでしか扱えない情報だし、しかも情報にアクセスできる人間も限られてるものなのにさ。よくまあ堂々と」
さっと眺めて、流出した可能性がある情報を確認する。
名前、生年月日、所属班と部隊の所属歴、特殊戦闘員として変更された日、得意とする戦術や技能など、かなりのものが書かれている。
「大野さんの名前もある……翔さんの名前はない。となると十八班解散前までの情報か。他のファイルの更新日時的にも、このパソコンを操作してたのは十八班の人間だろうな……いや、このファイルだけ更新日時が違う」
別のファイルに目を留めた二宮。
それは、数週間前の日付。
「翔さん、この日って何かあったっけ？」
そう言いながら、二宮は櫻井を振り返る。
櫻井は顔をしかめる。
「この日って、俺らが初めて柳谷さんと会った日じゃない？」
「あ、会議室に篭ってたときか」
雹隊での目立った出動はなかった日だ。
「普段と違うことといえば、横田さんが雹隊にいたね」
「……やっぱり、そういうこと？」
二宮も顔をしかめた。
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作者名：翠霞チサ
| 作成日時：2023年2月18日 23時
