私は貴方の飼い主よ

最強の姉20 ページ21

名前を偽って甚爾に仕事を依頼したいから所定の場所に来いと伝えた。
今から俺は、アイツを殴りに行く。
本当は家族の前で殴りたかったけど、それを姉さんは望んでねぇし。
だから人気のない所に呼び出して1発殴って二度と俺たちの視界に入るなって言ってやる。
あれから姉さんは見てわかるほどに精気が無くなった。
縁側で甚爾から貰った羽織を肩にかけながら庭を眺めてる。
毎日欠かさなかった修行を全部やらずに。
あんな姉さんは初めて見たんだ。
ガキの頃から大人みてぇな姉さんに俺は沢山助けられてきた。
だから次は、俺が姉さんを助ける。

廃工場の中に入れば、傍にあった適当な廃材に腰かけて待っている甚爾が居た。
俺は一瞬で甚爾の背後に周りアイツを殴ろうとした。
だが一瞬で気付かれ避けられた、くそ相変わらず五感がすげぇな。

「……よう、坊じゃねぇか」

「とりあえず殴らせろクソ野郎が」

「なんの事だよ」

「なんの事、だと？お前本気で言ってんならマジで俺はお前をここで殺すぞ」

「…妻のことか」

甚爾は構えていた腕をおろし、俺を真っ直ぐ見た。
あれ以来会ってない甚爾の姿はあまり変わってなかった。
まぁ強いて言うなら老けた、ってことくらいか。
そしてあの頃よりも強くなってることが分かった。

「なんで結婚してんだよ」

「俺の勝手だろ」

「姉さんのことは!!!テメェ自分から言っただろうが!」

「……俺の事なんざ忘れてんだろ」

「……は？」

「ガキの頃の事だぞ？忘れて他の男の事でも思ってっぐっ」

気がついたら俺は甚爾の頭を掴み地面にねじ伏せていた。
どうやったかなんて覚えてねぇ、ただ気づいたらこの状態だった。
だがそんなこと今はどうでもいいんだよ、それよりもこいつはなんて言った？

「忘れてる、だと？巫山戯んなよ…姉さんが！今までどれだけ努力してきたと思ってやがる！次てめぇに会った時に少しでも綺麗になっていたいから少しでも強くなっていたいから、そう言っていつもいつも誰よりも修行してたんだ！！それをテメェ忘れて他の男のことを思ってるだと！？」

「…あいつ、覚えてんのか」

「ったりめぇだろ！！姉さんはお前のことが好きなんだよ！テメェも分かってただろ！」

「あいつはガキだった、大人になりゃ忘れてると思ったんだよ」

「ってめぇ!!!!」

「坊、俺は今の妻と別れる気はねぇ」

また甚爾が俺の目を見た。
その目を見て俺は確信した、こいつは嘘は言ってない。






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