07:終わらぬ純情 ページ7
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5月下旬。
校庭で植えられているアジサイがぐんぐんと栄養を吸って成長をするのを見つけて夏が来たと感じる。
まだじとっとした梅雨は終わらない。初夏の緑はどの季節よりも鮮やかで、空は真夏の次に眩しい。
「あ、凛くん」
「あ、じゃねえよ遅え」
「え待ってたの?」
「いーから帰んぞ」
放課後、私のロッカーがあるコーナーに、凛くんは立っていた。
他の誰よりも群を抜いて目立つ異彩。
気怠そうに携帯を弄っていた彼は持ち前の視野の広さで角から顔を覗かせた私を一瞬で見つけてみせた。
ポケットに携帯とおっきな手を突っ込んで靴を取りだす私を「早くしろ」と見下ろす凛くん。
これだけ高圧的に喋っても、実際目の奥はいくらでも待つって叫んでいる。そういう所も好き。
「お前今日1日自分のルーティーン放棄してたのか」
「そんなわけないじゃん。朝遅刻しちゃって会いに行けなかったのー」
「……そんで7限まで遅刻したってか?」
「もうすぐ球技大会でしょ? 私体育委員だから忙しくて」
「………あっそ」
機嫌悪いなぁ。私以外の女友達いないもんなあ。
そういえば、クラス対抗凛くんは何出るんだろう。
頭一つ分背の高い顔を見上げる。
艶っぽい風が彼の間を通り抜けて異国の王子の様に輝いている。
「凛くんってサッカー得意なんだったけ」
「ああ」
「そしたら球技大会サッカーだよね。
あーあ、グラウンドだから全然近くで応援できないじゃん」
「お前何にしたんだ」
「私はバレー」
聞いただけで、興味なさそうにまた視線が逸れた。
私もテニスかソフトボールにしよっかなあ。でももう仲良いメンバーで組んじゃったし。
凛くんは時々、人が変わったみたいに強い顔をする時がある。
私がこれまで見たのは3回。入学式で「糸師くん」と声をかけた時と、サッカーについて聞いた時。
最後は、「兄弟いるの?」と質問した。
彼はいずれも、その力強い瞳の奥に青い炎を灯して私を睨みつけた。まるでそれ以上深堀するなと牽制されたみたいだった。
今回私が何気なく振ったサッカーの話題は大丈夫だったみたいだ。
どれだけ彼のその心の奥を見ようとしても、瞬発的にあと一歩で締め出される、そんな感覚だった。
「ありがと凛くん、また明日」
「ん、じゃあな」
凛くん。その寂しい背中の裏に何を隠してるの。
いつか見せて、凛くんの暗いところ。
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おそらまめ(プロフ) - 彩華さん» 彩華様、感想長らく気づかず遅くなり申し訳ありません。ありがとうございます。きっと二人、これからも沢山言い合いして、言葉にならない愛を育んで、お互いが明日を生きる理由がお互いになっていくんだと思っています。また機会があればどこかでお会いしましょう! (7月21日 13時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
彩華(プロフ) - 完結から時間経っているとはわかっているんですけど、これだけは言わせてください。めっちゃ好きです!夢主ちゃんも凛君も末長く幸せになって!これからも他の小説での交信頑張ってください。応援しています。 (7月11日 0時) (レス) @page45 id: 2b870d0ab1 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - mooさん» moo様、コメントありがとうございます!原作で摂取できない分滅茶苦茶に砂糖煮詰めております(^^)楽しんで頂けたようで何よりです。ご覧頂きありがとうございます。 (6月1日 18時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
moo(プロフ) - 糖分過多ー!!面白かったです! (6月1日 3時) (レス) @page45 id: e3fdbdb203 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ルアさん» ルア様、コメントありがとうございます!大切に作ったので、そう言って頂けて作品も作者同様喜んでおります。こちらこそ、作品を応援して頂きありがとうございます! (2023年4月19日 14時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2023年3月27日 18時