20:悲しみの境地 ページ20
.
逃げたんだ、私は。
好きのその先が怖くて、こわくて、凛くんの手を振り払って、走って、逃げて。
ずっと追いかけてるだけで幸せだったのに。
背中しか見えなかったのに、突然振り返ってきて、気付いたら目の前にいて、私の手を掴んでいて。
大勢の女の子が居る中で、世界の中心にいた彼はたまたま私の方を向いた。
そして命知らずな私を気に入って、私を試すように、近づいて、
「っう、はぁ……ッ!」
今までせき止めていた感情が喉のダムを決壊させて一気に押し寄せる。
自分の中にある負の感情がとめどなく溢れかえる勢いで涙が止まらなかった。
浅はかだった、私の馬鹿。
淡い憧れで好きになって、凛くんが幸せになれたら、なんて薄い希望を抱いて、結局自分が傷つかないために凛くんから逃げた。
どんな暗い部分だって受け入れたかった。
でも、私の好きを弄ばれて耐えられなくなった。
もういっそ、他の大勢と一緒に、遠くから眺めてる方が、凛くんの目にも止まる事なく、ずっと淡い感情を抱いたまま憧れで終わっていたんじゃないだろうか。
凛くんが触れた何もかも愛しくて、憎らしい。
手首のこのシュシュでさえ、私を狂わせる。
昨日、彼は何を言おうとしてたんだろう。
「俺はお前の事」
私はこの後の言葉を怖くて聞けなかった。
それを聞くと、この先に大きく影響する気がした。
私の一番望んでいる言葉が、伝えられるんじゃないかと思った。
ざあざあ降りの雨は無情にもローファーから染み込んで靴下を濡らす。
悲しみの波が私をとらえて飲み込もうとしているみたいだ。
「――……お母さん、しんどい…」
「あら、熱は?」
「わかんない、あるかも」
「体熱いね、学校休む?」
翌日、リビングまで壁伝いに歩いてお母さんに話しかけた。
体温計を脇に挟みながらぼおっとする頭でゆっくり頷く。
お母さんが電話をかけているのを遠くの方で聞く。
体温計は37.7度を指していた。
「とりあえず寝てなさい、お母さん下にいるから」
「はあい」
お母さんが部屋を出て行ってベッドに潜り込んだのが午前10時。
そのまま寝落ちて、次起きた時にはもう15時になっていた。
まだ重たい体をよじって、通知で光る携帯を手に取る。
LINEが何件か入っている。いつもの友達と、潔くん。
それから、凛くんも。
.
465人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おそらまめ(プロフ) - 彩華さん» 彩華様、感想長らく気づかず遅くなり申し訳ありません。ありがとうございます。きっと二人、これからも沢山言い合いして、言葉にならない愛を育んで、お互いが明日を生きる理由がお互いになっていくんだと思っています。また機会があればどこかでお会いしましょう! (7月21日 13時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
彩華(プロフ) - 完結から時間経っているとはわかっているんですけど、これだけは言わせてください。めっちゃ好きです!夢主ちゃんも凛君も末長く幸せになって!これからも他の小説での交信頑張ってください。応援しています。 (7月11日 0時) (レス) @page45 id: 2b870d0ab1 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - mooさん» moo様、コメントありがとうございます!原作で摂取できない分滅茶苦茶に砂糖煮詰めております(^^)楽しんで頂けたようで何よりです。ご覧頂きありがとうございます。 (6月1日 18時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
moo(プロフ) - 糖分過多ー!!面白かったです! (6月1日 3時) (レス) @page45 id: e3fdbdb203 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ルアさん» ルア様、コメントありがとうございます!大切に作ったので、そう言って頂けて作品も作者同様喜んでおります。こちらこそ、作品を応援して頂きありがとうございます! (2023年4月19日 14時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:おそらまめ | 作成日時:2023年3月27日 18時