15:湿気た初夏 ページ15
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梅雨入りして間もない時期、今日は珍しく曇りだ。
どことなくじっとりとした風が吹いて、若干汗ばんだ肌に制服のシャツが張り付く。
まだまだ太陽が南西の高い位置にある中、私と凛くんは昨日に出来立ての水溜まりを避けながら並んで歩いていた。
一瞬顔を出した太陽が私達に影をつくる。
北東側に伸びた少し長めの凛くんの影を踏んだ。
影をつかまえてるのは私の方なのに、実際に私を離さないのは凛くんの方だ。
「さっき、何で凛くんはもう居たの?」
「あっちで待ってた方が都合良いだろ」
その長い脚を無駄に活用しながらゆったりと歩く凛くん。
「それに、」私の顔を覗き込むように彼の顔がぐっと近づく。
長い前髪が流れて凛くんの右目が隠れる。彼は意地悪そうに口角を上げた。
「お前が変な事考えて逃げ出さねえように、な」
「……ぐう」
「ぐうの音を上げるな」
至近距離で人間離れした顔が私を射詰めた。
肌白、睫毛長、なんて思ってるうちに凛くんは姿勢を戻してまた顔が遠くなっていた。
「そういえば、足。もう大丈夫なのかよ」
「あ、うん! あの時はありがとお」
「もうヘマすんじゃねえぞ」
そうか、いつもは私が少し早足で凛くんについていくのに、今日やたらとゆっくり歩いてくれてたのは、そういう事だったんだ。
気付いてすぐ、心臓がぐーぐーと突き上げられる気持ちでたまらなくなった。
私きっと今変な顔してる。気付かれないように目を逸らして、すぐ近くのカフェの看板の偶像と目が合った。
「あ、凛くん! お礼する!」
「なにを」
「カフェ奢らせて!」
半ば強引に彼の手を引いて、私達の帰り道とは反対方向のお店に足を進めた。
平日の放課後、お店の中は席が埋まっていたけど、レジは空いていてメニューを決める間もなくすぐに順番が来てしまった。
「凛くん決まった?」
「お前何にすんの」
「んー、んん……」
新作の2種類が気になる。
桃とチョコ、どっちにしよう。
こういうのは優柔不断で見れば見る程悩んでしまう。
うんうんと悩んでいると、斜め後ろから節くれた細長い指がメニューを指した。
「これとこれ、ください」
「かしこまりました」
「えっ」
私の悩んでいた2つを指して凛くんが会計を進めた。
私が慌てて財布を取り出した時には、もう店員さんからお釣りをもらっていて。
「奢るって言ったよね?」
「本当に奢られると思ってたのか?」
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おそらまめ(プロフ) - 彩華さん» 彩華様、感想長らく気づかず遅くなり申し訳ありません。ありがとうございます。きっと二人、これからも沢山言い合いして、言葉にならない愛を育んで、お互いが明日を生きる理由がお互いになっていくんだと思っています。また機会があればどこかでお会いしましょう! (7月21日 13時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
彩華(プロフ) - 完結から時間経っているとはわかっているんですけど、これだけは言わせてください。めっちゃ好きです!夢主ちゃんも凛君も末長く幸せになって!これからも他の小説での交信頑張ってください。応援しています。 (7月11日 0時) (レス) @page45 id: 2b870d0ab1 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - mooさん» moo様、コメントありがとうございます!原作で摂取できない分滅茶苦茶に砂糖煮詰めております(^^)楽しんで頂けたようで何よりです。ご覧頂きありがとうございます。 (6月1日 18時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
moo(プロフ) - 糖分過多ー!!面白かったです! (6月1日 3時) (レス) @page45 id: e3fdbdb203 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ルアさん» ルア様、コメントありがとうございます!大切に作ったので、そう言って頂けて作品も作者同様喜んでおります。こちらこそ、作品を応援して頂きありがとうございます! (2023年4月19日 14時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2023年3月27日 18時