恋とか花とか気持ちとか。 27 ページ32
(まさか、俺がこいつにこんな顔をさせるとはな……。ほんとに俺はダメな兄ちゃんだ)
早く捨てなきゃ、と一層決意を固める。
十四松の頭から手を離すと、おそ松は言った。
「じゃあ行ってくるな、十四松」
引き戸を開け、外に出る。後ろ手に閉める瞬間、十四松の声が聞こえた。
「兄さん……っ」
.
花への手向けにと持ってきたビールをちょっとぐらいならいいよな、と防潮堤に座りながら飲む。
おそ松は下弦の月に照らされる海にいた。カラ松の色の海で、自分の色の炎を使い、恋心の結晶の花を燃やす。何とも最後に似合わしいじゃないか、とそう思って。
月を見上げながら、ゆっくりビールを半分まで飲むと、防潮堤の上に置いた。消波ブロックの上を渡り歩き、砂浜の上へ降り立つ。
自分が吐いた六つの花を取り出し、砂の上に置く。吐いているときはあんなに苦しかったのに、こうして見るととても少ない。
マッチを取り出すと一本擦って、火を点ける。花に、火種を放り込んだ。
やはり生殖能力が強いのか、なかなか花は焼けない。赤い光をぼんやりと見つめて、じっとそのときを待つ。
最初に焼け始めたのは、薔薇。まずは一輪の薔薇が、火種に侵され花弁が黒くなって落ちていく。
おそ松は薔薇が焼け始めたのを見ると、すう、と息を吸い込んで口を開いた。
「ねーんねーんころーりーよ おこーろーりーよー」
花への挽歌に子守歌を歌う。自分の花が燃えていく。自分の恋心が消えていく。
一輪目の薔薇が焼けて消えた。次に、二輪目の薔薇に移る。
「ぼーうやーはーよいー子ーだ ねんねーしーなー」
最初に吐いた花は薔薇。紅色の薔薇の花言葉は、「死ぬほど恋焦がれています」。
多弁の薔薇だったので、「私を馬鹿にしないで」、「誇り」という意味が追加される。
更に二本だったので、「二人だけの世界」という意味もある。
二輪目の薔薇が完全に炭の状態になる。
次は、花菱草に。
「ねーんねーのお守ーりーは どこーへー行ったー」
三番目に吐いた花菱草。花言葉は、「私を拒絶しないで」。
オレンジ色の花が黒くなり、風に攫われる。
次に、ディアスシアに。
「あのーやーまーこーえーて 里ーへー行ったー」
四番目に吐いたディアスシア。花言葉は、「私を許して」。
そして、柿の花に。
「さーとーのみやーげーに なにーもーろーたー」
五番目に吐いた柿の花。花言葉は、「広大な自然の中で私を永遠に眠らせて」。
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チョロ松girl⊂⌒⊃ - とても、綺麗な話でした！ そして、色々と考えさせて貰いました。 (2019年7月15日 22時) (
レス) id: d9fccfe3cd (このIDを非表示/違反報告)
Aster - 野口さん» 少しでも貴方の考えの参考になったのなら嬉しいです。続編でもよろしくお願いします。 (2016年12月11日 18時) (レス) id: 7de9db5b63 (このIDを非表示/違反報告)
Aster - 紫流さん» 私は常々人の心を動かすのが物書きの仕事だと思っています。夢に一歩近づけたかな、と嬉しくなりました。こちらこそ素敵なお言葉をありがとうございます。 (2016年12月11日 18時) (レス) id: 7de9db5b63 (このIDを非表示/違反報告)
野口 - 今回のもとても綺麗でおもしろかったです！ (2016年12月7日 8時) (レス) id: 1de2cb0f26 (このIDを非表示/違反報告)
野口 - 新しいの読ませていただきました 今回のは読んでいて、あまり輪廻の話に興味がなかったんですが、来世でもその人を好きでいられるかというのは難しいと思いました。だって逢える確率の方がひくいもん、だから今精一杯の愛を！ってことかなぁと考えさせていただきました (2016年12月7日 8時) (レス) id: 1de2cb0f26 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Aster | 作成日時：2016年8月30日 8時
