恋とか花とか気持ちとか。 26 ページ31
しばし見つめ合う。
「……いや、やっぱ何でもねえや。夕飯楽しみだな、カラ松」
かぶりを振って、おそ松は当たり障りのないことを言った。
「そうだな？」
そうして、また歩き出した。おそ松とカラ松の位置はズレたまま。
(好きとか言ったらダメだ)
たとえ最後でも、名残を残しちゃダメだ。
手を握り締めると、おそ松はカラ松へと駆け寄った。
.
上がり框に座り込んで、自分の靴を履く。引き戸の外は相当暗いらしく、磨り硝子は藍色に染まっていた。
当たり前だ。時刻はもう七時半なのだから。
立ち上がりトントン、と靴で音を出す。癖だった。底がしっかりとしたコンパクトな手提げバッグを手に持つ。
「……行ってきます」
一応挨拶をして、外に出ようと引き戸を開けようとした瞬間。
「おそ松兄さん」
声が掛けられた。
振り向くと暗い中に、半ズボンに包まれた足と、黄色のパーカーが見える。
「……十四松か」
目を凝らしても顔の部分はよく見えなかった。
「何々ー？ お兄ちゃんのお見送りしてくれるのー？ いやー気が利くねじゅうしま」
「おそ松兄さん」
すべて言い切る前に、十四松がふざけないで、と言うように遮った。ああこれは真剣に向き合わないといけないな、と低い声で答える。
「……何だよ」
すると、十四松が本題に入った。
「……あのねおそ松兄さん、ぼくね。おそ松兄さんのこと大好きだよ。ぼくだけじゃなくて、他のみんなも、おそ松兄さんのこと大好きだと思ってる。ぼく、みんなのこと大好きだし、みんなで幸せになりたいよ。
でも、ぼくね、みんなそれぞれの幸せがあることはわかってるんだ。おそ松兄さんが何に悩んでるかはわかんないけど、何かを捨てようとしてるのはわかる。おそ松兄さんには、自分の幸せを追求してほしい。その資格があるよ。みんなだってそう思って」
「十四松」
声を掛けると、十四松の体がビクッと震える。
十四松に近づくと、ぎゅっと抱き締める。背中を優しくポンポン、と叩きながら言った。
「ごめんなぁ、十四松。お前にそこまで言わせて」
十四松の体は可哀想に小刻みに震えていた。後ろにある顔の方から嗚咽が聞こえることで、泣いていることがわかる。
「にいさ……」
「でもな、もう決めたんだ。お前の気持ちは嬉しいけど、これが最善なんだよ」
頭を優しく撫でてやる。今まで見えなかった顔が、やっと見えた。あの日、彼女に振られたときのように大粒の涙を零していた。
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チョロ松girl⊂⌒⊃ - とても、綺麗な話でした！ そして、色々と考えさせて貰いました。 (2019年7月15日 22時) (
レス) id: d9fccfe3cd (このIDを非表示/違反報告)
Aster - 野口さん» 少しでも貴方の考えの参考になったのなら嬉しいです。続編でもよろしくお願いします。 (2016年12月11日 18時) (レス) id: 7de9db5b63 (このIDを非表示/違反報告)
Aster - 紫流さん» 私は常々人の心を動かすのが物書きの仕事だと思っています。夢に一歩近づけたかな、と嬉しくなりました。こちらこそ素敵なお言葉をありがとうございます。 (2016年12月11日 18時) (レス) id: 7de9db5b63 (このIDを非表示/違反報告)
野口 - 今回のもとても綺麗でおもしろかったです！ (2016年12月7日 8時) (レス) id: 1de2cb0f26 (このIDを非表示/違反報告)
野口 - 新しいの読ませていただきました 今回のは読んでいて、あまり輪廻の話に興味がなかったんですが、来世でもその人を好きでいられるかというのは難しいと思いました。だって逢える確率の方がひくいもん、だから今精一杯の愛を！ってことかなぁと考えさせていただきました (2016年12月7日 8時) (レス) id: 1de2cb0f26 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Aster | 作成日時：2016年8月30日 8時
