quatre cafe ページ5
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彼女は少しばかり不思議そうな顔をしてから、
「何かお困りですか?」
と、傘を閉じながら俺の方を向いて微笑む。
俺は予想もしていなかったことに驚いて、声も出ずただ彼女を見ていた。
なぜ働いていたはずの彼女が何で外にいたのだろうか。
仕事が終わったのか、とでも思ったが、制服姿なのでその線はない。
そんな風に考えていれば、彼女はそれを察したのか、
「あ、お客様に忘れ物を届けてきたところなんです」
と、苦笑する。
彼女の魔法のような物事を察する能力に少し驚きながら、
「そ、うなんですか」
と、掠れかけた声で答えた。
「はい」
彼女はそう笑うと、足を踏み出して店内に入ろうとする。
しかし、それでも動こうとしない俺を不思議に感じたのか、俺を見て、あっ、と声を漏らした。
「もしかして、傘盗られてしまったんですか?」
そう眉をひそめて、俺の手と傘立てを交互に見る。
俺はなかなか思うように声が出ない喉から、声を絞り出した。
「…実は、そうなんです。ふ、つうのビニール傘だったから、誰かが間違ったのかもしれません」
少し突っかかりつつも、なんとか言えて、俺はほっと息を吐く。
彼女はまだ悲しそうに眉をひそめたまま、
「そうなんですか…」
と、地面の方を向いて呟いた。
俺は緊張して、それ以上彼女と二人きりで過ごせないと、その場を立ち去ろうとした時、彼女はパッと顔を上げる。
無抵抗だった俺の目と、綺麗な焦げ茶色の彼女の瞳がパチリとかち合う。
「良かったら、私の使いませんか?」
その言葉にも驚きながら、なぜか彼女の瞳から目を離せなかった。
俺は、今日一掠れた声で、
「いや、でも…」
と、反対する。
しかし、彼女はそんな俺に優しく、でもはっきりと言葉を告げる。
「こんな雨の中に傘なしは流石に駄目です。風邪をひいてしまいますよ?」
「…じゃあ、あなたは傘なくてどうするんですか?」
「それは…」
彼女は少し考えた後、
「お、折りたたみがカバンの中にあるんです!」
と、見え見えの嘘をつく。
「…完璧嘘じゃないっすか、それ」
そんな姿がなんだかおかしくて、俺は笑ってしまった。
彼女はそんな俺に驚いたのか、えっ、と零すと俺をただ見つめる。
俺はその瞳に正気に戻って、
「あ、いや…お気遣いありがとうございます。でも、あなたにも風邪はひかせられませんから。
それに、俺滅多に風邪ひかないんで!」
と、その場を走り去ってしまった。
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mifulu(プロフ) - ほわさん» ご指摘ありがとうございます! バーコードって変ですね笑 これからもよろしくお願いします。 (2019年9月10日 9時) (レス) id: 8875a6e61c (このIDを非表示/違反報告)
ほわ(プロフ) - 誤字とかじゃないんですけど、最新話のバーコードはQRコードにした方が良いと思いますよ!続き楽しみにしてます!更新頑張ってください! (2019年9月10日 0時) (レス) id: d0efce02c1 (このIDを非表示/違反報告)
mifulu(プロフ) - 白うさぎさん» ありがとうございます! ゆっくりになるとは思いますが、楽しんでもらえるよう頑張ります。 (2019年7月21日 23時) (レス) id: 477f578196 (このIDを非表示/違反報告)
白うさぎ - とても面白くて、毎日楽しみにしています!更新頑張って下さい(*^^) (2019年7月21日 17時) (レス) id: 33733f1464 (このIDを非表示/違反報告)
mifulu(プロフ) - 華恋さん» 初めまして(*^^*) ありがとうございます! テストが近いのでゆっくりになるとは思いますが、期待に応えられるように頑張ります! (2019年6月30日 10時) (レス) id: 80a048a51f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mifulu | 作成日時:2019年6月10日 0時