vingt-et-un cafe ページ22
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その声と告げられた名前に、俺はタオルの下で驚きを隠せなかった。
タオルを取って顔を確認しようと思ったが、そんな勇気が出ず、
「よろしくお願いします」
と、姿勢を変えぬまま、でもできるだけ優しい声でそう返した。
彼女はその俺の返しに、はい!と嬉しそうな声で答えると、トコトコと俺のそばまでやってくる。
「では、まず流させていただきますね」
そう言って、彼女の手が俺の頭に触れた。
俺は、まだ本当にそうかも分からない彼女の手に、胸の鼓動が跳ね上がる。
視覚が遮断されているからか神経が研ぎ澄まされていて、余計に手の感覚が伝わってくる。
って、なんか変態じゃん、俺!!
頭の中に広がった煩悩を消そうとすればするほど、それは広がっていく。
タオルの下でそんな葛藤が起こっているなんて露知らず、彼女は口を開いた。
「温度は大丈夫ですか?」
「はい」
「良かったです」
そんな短いやり取りの中で、その優しく芯のある声が、あの子の声だと確信を得ていく。
美容師になっていることも、俺のお気に入りの美容室に働いていることも驚きだ。
でも、それより何より、もう会えないと思っていた彼女に会えた。
その事実がただただ嬉しくて幸せで堪らなかった。
俺はタオルで顔が見えないことをいいことに、一人で幸せを噛みしめる。
すると、気持ちよく俺の頭を洗っていた手の動きは止まり、代わりにシャワーの音がした。
ああ、もうすぐ終わりの時間なのか。
と、寂しさと悲しさがこみ上げてくる。
そして、頭もさっぱりし、名残惜しい時間が終わった後、話しかける心の準備をしているうちに、
「タオルは取るなと店長に言われておりますので、これで失礼します。少しの間お待ち下さい」
と、彼女はそそくさと出て行ってしまった。
急いで起き上がって、呆気にとられていた俺の元へ即座にやってきたのは、一ノ瀬さん。
一ノ瀬さんは扉を通って俺の顔を見ると、不思議そうに尋ねてくる。
「あの子どうだったって…どうしたの。なんか顔赤いけど」
「…いや、別に何でもないっす」
そんな俺の返答に、一ノ瀬さんは何か気づいたようにふーん?と口角を上げた。
俺は恥ずかしい気持ちで、思わず彼から目をそらす。
また俺は、後回しにして後悔するのか?
もっと早く行動しておけばって、また?
「一ノ瀬さん」
「はいはい?」
「さっきの子と…俺、少しだけ話したいです」
一ノ瀬さんは嬉しそうににっこり笑った。
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mifulu(プロフ) - ほわさん» ご指摘ありがとうございます! バーコードって変ですね笑 これからもよろしくお願いします。 (2019年9月10日 9時) (レス) id: 8875a6e61c (このIDを非表示/違反報告)
ほわ(プロフ) - 誤字とかじゃないんですけど、最新話のバーコードはQRコードにした方が良いと思いますよ!続き楽しみにしてます!更新頑張ってください! (2019年9月10日 0時) (レス) id: d0efce02c1 (このIDを非表示/違反報告)
mifulu(プロフ) - 白うさぎさん» ありがとうございます! ゆっくりになるとは思いますが、楽しんでもらえるよう頑張ります。 (2019年7月21日 23時) (レス) id: 477f578196 (このIDを非表示/違反報告)
白うさぎ - とても面白くて、毎日楽しみにしています!更新頑張って下さい(*^^) (2019年7月21日 17時) (レス) id: 33733f1464 (このIDを非表示/違反報告)
mifulu(プロフ) - 華恋さん» 初めまして(*^^*) ありがとうございます! テストが近いのでゆっくりになるとは思いますが、期待に応えられるように頑張ります! (2019年6月30日 10時) (レス) id: 80a048a51f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mifulu | 作成日時:2019年6月10日 0時