dix-huit cafe ページ19
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チケットを渡し損ねてからというもの、年末年始と仕事が忙しく、なかなかカフェには顔を出せなかった。
その間、チケットはずっと鞄の中で息を潜めていたが、やっと今日、日の目を浴びることができそうだ。
俺はそんなこと思いながら、やっとゲットできた休日の朝にカフェの扉の前に立っていた。
緊張で早く打つ鼓動をなんとか落ち着かせるように、深呼吸する。
『お久しぶりです。あの、もし良かったらこの舞台見に来てもらえませんか?』
もう何回唱えたかわからない台詞を心の中で何度も何度も唱えて、俺はやっとの思いで店内に入った。
年始だからかいつもよりは人が多かったが、いつもの席は空いていたので、そのままレジへ向かう。
注文を受ける店員さんは彼女ではなくて、内心少しホッとしつつ、カウンターの中をのぞいた。
しかし、彼女の姿はない。
いや、まぁ時間はまだまだあるし。
まだ午前中を指す時計を見て、俺はカフェオレを受け取り、席に座った。
そして、『オオカミ少女と黒王子』の台本を取り出す。
まぁ、急がなくても、ここでこうして待っていればきっと会える。
なんて、なぜか無駄に自信があった。
いや、むしろ、ここで待つことしか彼女に会える方法はないことから、目を背けたかっただけかもしれない。
でも、彼女に会うためには、そういう意地とかプライドとかを捨てて、それにすがるしかないのだ。
だから、気長に待とう___。
そう決めて何時間が経っただろうか。
四杯目のカフェオレは底をつき、台本は何度読んだかわからない。
明るかった空には月と星が輝き、時計はもう十九時を指していた。
昼を過ぎ夕方を過ぎ夜が近づいても、彼女は店に姿を見せない。
ここまでくるともう不安しかなくて、俺は遂に椅子から立ち上がった。
そして、荷物を持ってレジの方へと向かえば、今日何度目かの店員さんの笑顔が向けられる。
「何かご注文ですか?」
「いえ、あの…」
「はい?」
喉に言葉が突っかかるのを感じつつ、俺は深く息を吸って言葉を発した。
「あの、た…竹内さんっていう店員さん、今日いらっしゃいますか?」
店員さんは驚いたように二度大きく瞬きすると、申し訳なさそうに眉をひそめる。
「すみません。実は…竹内は年末に辞めたんです」
本当は何となく気づいていた事実を突きつけられ、軽く目眩がする。
そこからの記憶はない。
ただ、悲しみで心にぽっかりと穴が開いたことだけはわかっていた。
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mifulu(プロフ) - ほわさん» ご指摘ありがとうございます! バーコードって変ですね笑 これからもよろしくお願いします。 (2019年9月10日 9時) (レス) id: 8875a6e61c (このIDを非表示/違反報告)
ほわ(プロフ) - 誤字とかじゃないんですけど、最新話のバーコードはQRコードにした方が良いと思いますよ!続き楽しみにしてます!更新頑張ってください! (2019年9月10日 0時) (レス) id: d0efce02c1 (このIDを非表示/違反報告)
mifulu(プロフ) - 白うさぎさん» ありがとうございます! ゆっくりになるとは思いますが、楽しんでもらえるよう頑張ります。 (2019年7月21日 23時) (レス) id: 477f578196 (このIDを非表示/違反報告)
白うさぎ - とても面白くて、毎日楽しみにしています!更新頑張って下さい(*^^) (2019年7月21日 17時) (レス) id: 33733f1464 (このIDを非表示/違反報告)
mifulu(プロフ) - 華恋さん» 初めまして(*^^*) ありがとうございます! テストが近いのでゆっくりになるとは思いますが、期待に応えられるように頑張ります! (2019年6月30日 10時) (レス) id: 80a048a51f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mifulu | 作成日時:2019年6月10日 0時