seize cafe ページ17
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「…どうしたの?」
彼の優しすぎる声に、私は思わずグラスを落としかけてしまった。
慌ててそれをキャッチしつつ、私はちらりと彼の方を振り返る。
彼は私に背を向けて電話をしている。
顔は見えないけれど、電話の相手をなだめるみたいに、優しく優しく語りかけている。
「…うん、事情はなんとなく分かった」
あれ、もしかして電話の相手って…。
嫌な予感が私の心の中を満たしていく。
「とりあえず待ってて。そっち行くから」
彼は安心させるように電話に語りかけると、じゃあ後でねと言って、電話を切る。
そして振り返ると、
「すみません。キャラメルラテを一つ」
と、申し訳なさそうに、注文した。
彼から初めて出たカフェオレ以外のドリンクは、きっと電話の相手に渡すものなんだろう。
そして、その相手はきっと___彼女さんだ。
「…かしこまりました。すぐにお作りいたしますね」
そう笑って言う私に、申し訳なさげに笑うと、鞄から財布を取り出した。
私は表情筋が凍りついたみたいに、笑顔を貼り付けたまま、ドリンクを作る。
その間も、彼は何か言いたそうにしていたが、その口から出る言葉を聞きたくなくて、何にも気づかないふりをした。
そっか、彼女さんいるんだ。
ふわふわのミルクの泡にキャラメルソースをかけていく。
それは重さでミルクの泡にのめり込んだ。
それを見ながら、私の心も沈んで冷たく冷えていく。
紙袋をとりだして、カップホルダーを中に入れる。
そして、キャラメルラテと、彼からカフェオレを受け取りその中に二つ並べていれた。
「お待たせしました。ご注文の商品です」
二つ並んだドリンクを笑顔で差し出す自分に、何と無く嫌気がさす。
それでも、私に他にできることは何もない。
ただ笑顔で見送って、店の掃除をすることだけ。
彼は、一瞬何か迷いの表情を見せたが、受け取ると
「ありがとうございます」
と言って、代金を置き、急ぎ足で店から去っていった。
私はその背中を見つめることしかできない。
最後の最後の大きな爆弾。
出来れば知りたくなかったかも、なんて。
私は笑顔で彼がドアをくぐるのを見つめる。
あのドアをくぐって仕舞えば、もう私は彼とは会えない。
店員と客ではない、本当に関係のない人になってしまう。
でも、私に彼を止める理由も、権限もない。
彼の足がこの店の床を離れていく。
私は店の中で一人、小さくお辞儀をした。
胸の小さな痛みに、気づかずに。
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mifulu(プロフ) - ほわさん» ご指摘ありがとうございます! バーコードって変ですね笑 これからもよろしくお願いします。 (2019年9月10日 9時) (レス) id: 8875a6e61c (このIDを非表示/違反報告)
ほわ(プロフ) - 誤字とかじゃないんですけど、最新話のバーコードはQRコードにした方が良いと思いますよ!続き楽しみにしてます!更新頑張ってください! (2019年9月10日 0時) (レス) id: d0efce02c1 (このIDを非表示/違反報告)
mifulu(プロフ) - 白うさぎさん» ありがとうございます! ゆっくりになるとは思いますが、楽しんでもらえるよう頑張ります。 (2019年7月21日 23時) (レス) id: 477f578196 (このIDを非表示/違反報告)
白うさぎ - とても面白くて、毎日楽しみにしています!更新頑張って下さい(*^^) (2019年7月21日 17時) (レス) id: 33733f1464 (このIDを非表示/違反報告)
mifulu(プロフ) - 華恋さん» 初めまして(*^^*) ありがとうございます! テストが近いのでゆっくりになるとは思いますが、期待に応えられるように頑張ります! (2019年6月30日 10時) (レス) id: 80a048a51f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mifulu | 作成日時:2019年6月10日 0時