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「残業もほとんどしたらあかんことになってるし、有給消化率も百パー近いって。少なくても風邪でふらふらんなっとるのに休まれへんようなことなんて絶対ないし、休むことに難色示す上司もおらへんな。」


淡々と話した後、大倉くんはちらりと視線をこちらに向けた。


「気になるんやったら人事の連絡先、教えるけど。」


「……それ、本気で言ってる?」


私は、慎重な面持ちで大倉くんを見上げる。上空を飛行機の飛ぶ音がかすかに聞こえた。


「本気やなかったら他に何があんねん。」


「だって…それって、仮にも私が大倉くんの会社に転職したら、同じ職場で働くってことだよね?」


「嫌なん?」


大倉くんは唇を尖らせたから私は首を横に振る。


「いや、私がじゃなくて…大倉くん、嫌じゃないの?」


「嫌やったら教えるか。」


まあそれもそうか、と思ったけど、その返答は純粋に嬉しかった。大倉くんに嫌われているとは思っていなかったけど、誰かに自分の存在が認められていることを自覚するのは私にとってとても稀有なことだったから。


「結構困ってるみたいでさ、周りに転職したいひとおったら聞いてみてほしいって言われててん。」


風がゆるやかに吹くたびに煙草の匂いと柔軟剤の匂いが鼻をかすめる。


「まあ…辞めるは辞めるで結構しんどいとは思うけど、今のままずっとその仕事続けてたらAちゃん多分、ほんまに潰れてまうで。」


私は、はは、と笑った。実際もう潰れかけているような気がする。あの倒れた日だって、本当に限界すれすれまでいってなんとか持ち直したのだ。

そんな綱渡りみたいな状態で、毎日生きている。


「俺は満たされへんとは言うたけど唯一仕事は楽しいしそれなりに誇りも持てんねん。人間、そういう心の居場所みたいなんがひとつはないと生きていかれへんよ。」


「…うん。」


大倉くんの言う通りだった。

仕事にも恋愛にも他の私生活にもなんの意味も見出せないまま生きるのは、生きながらにして死んでるも同然かもしれない。



「別に嫌やったら無理することは全然ないから、考えるだけ考えてみれば?悪い話やないと思うし。」


「…うん、考えてみる。」


頷いて視線を手元に落としてから家から持ってきた発泡酒をまだ開けてないことに気づいた。


「ありがとう。」


私がちいさな声で言うと大倉くんは得意げな笑みを浮かべ、短くなった煙草を灰皿に落とす。


何かすこし、変わっていきそうな予感がした。







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蒼 夢見子(プロフ) - すぅさん» すぅ様、初めまして。コメントありがとうございます^^私には勿体無くも有難いお言葉いただけてとても嬉しいです(涙)これからも楽しんでいただけるものを書けるよう頑張ります! (2018年12月3日 11時) (レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
すぅ(プロフ) - こんばんは。今まで読んできた小説のなかで一番素敵な物語です。これからも応援しています (2018年12月3日 0時) (レス) id: 6e6892a55b (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 茜音さん» 茜音様、こんにちは。こちらにもコメントいただけてとっても嬉しいです...(涙)この間とはすこし違ったいたずらで甘い大倉くんを書きたいなーと思い書き始めました。そう言っていただけると俄然執筆への意欲が湧いてきます!ありがとうございます^^ (2018年11月21日 10時) (レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
茜音(プロフ) - こんにちは!こちらのお話にもコメント失礼します。優しいんだか冷たいんだか分からない大倉くんとっても魅力的です好きです(;_;)ヒロインちゃんが幸せになれることを密かに願いながら応援しております、、、! (2018年11月21日 0時) (レス) id: c4843d23a9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2018年11月13日 22時

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