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夕食後家に帰ったらすこし仕事をしてから寝ようと思っていたのに、

「晩酌付き合うてよ。」

って大倉くんが言うから、帰りにスーパーに寄ってビールや発泡酒を数本――大倉くんはもう家のストックがなくなるとかでダースで買ってた。無類のお酒好きらしい。――とおつまみになりそうなスナックを買って、屋上に来た。



「今日曇っとるな。」


スーパーの袋を手にぶら下げた大倉くんは天を仰いで呟いた。


「ほんとだ。月見えないや。」


分厚い雲に覆われた空。風がゆるく吹いていて、雲がゆっくりと流れていくのが見えた。

隣に立っている大倉くんの髪の毛がさらさらと揺れる。


大倉くんは袋を地面に置くと中から銀色の缶を二本取り出してひとつ私に差し出した。

ありがとうって受け取って、ふたり同時にプルタブを開けると「かんぱい」ってやさしく缶を合わせた。



「何に乾杯?」


私がそう聞いてみると大倉くんはぐいっと缶を傾けて爽快なため息をついた後、片眉を上げておどけた表情を見せる。


「Aちゃんの失恋に?」


「…もうそれは放っておいてって言ってるでしょ。」


眉をひそめて口を尖らせる私を、


「冗談やん。すぐ拗ねて、子供みたいやな。」


呆れたような目で見下ろしてくるから、それはこっちの台詞だ、と声を大にして言いたい。


「どっちがよ?大倉くんの方が、子供みたい。なんでもすぐ口に出すし、失礼だし、負け惜しみするし。」


腹立ち紛れにビールを胃に流し込んでから、大倉くんを睨むと何がそんなに面白いのか知らないけれど、愉快そうにむふむふと笑う彼。


「でもさ、よかったんとちゃうん?」


「…何が?」


「やって、亮ちゃんのことずっと好きやのにそこから逃げるために彼氏と付き合ってたんやろ?それって要は、彼氏を利用してたようなもんやん。」


やわらかい表情を浮かべながらも、大倉くんの言葉は鋭いやいばのように私を刺してくる。だけど、何も言えなかった。それはつまり、大倉くんの言うことは間違っていなかったから。


確かに私は、亮を忘れるために、忘れてしあわせになるために、恋愛に穴を開けないようにしていた。


「そういうのって逃げようとすればするほど、がんじがらめんなってちっとも楽になられへんもんやん。無理して恋愛してもええことないし。

…まあ、何が正解かなんてわからへんけど。」



大倉くんはそう呟くと屋上から見える景色に目をやりながら喉を鳴らしてビールを飲んだ。






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蒼 夢見子(プロフ) - すぅさん» すぅ様、初めまして。コメントありがとうございます^^私には勿体無くも有難いお言葉いただけてとても嬉しいです(涙)これからも楽しんでいただけるものを書けるよう頑張ります! (2018年12月3日 11時) (レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
すぅ(プロフ) - こんばんは。今まで読んできた小説のなかで一番素敵な物語です。これからも応援しています (2018年12月3日 0時) (レス) id: 6e6892a55b (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 茜音さん» 茜音様、こんにちは。こちらにもコメントいただけてとっても嬉しいです...(涙)この間とはすこし違ったいたずらで甘い大倉くんを書きたいなーと思い書き始めました。そう言っていただけると俄然執筆への意欲が湧いてきます!ありがとうございます^^ (2018年11月21日 10時) (レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
茜音(プロフ) - こんにちは!こちらのお話にもコメント失礼します。優しいんだか冷たいんだか分からない大倉くんとっても魅力的です好きです(;_;)ヒロインちゃんが幸せになれることを密かに願いながら応援しております、、、! (2018年11月21日 0時) (レス) id: c4843d23a9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2018年11月13日 22時

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