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「いいことってたとえば?」と聞いてきたのは確かに大倉くんだった。それなのに。そのくせに。


「なあ、Aちゃんさ、ボーリングできる?」


まったく脈絡がなく、突拍子もないことを聞いてきたから私は混乱した。『ボーリング』という言葉がぐるぐると頭の中で回転する。


「…え?…ボーリングって、あの?」


ボールを投げる仕草をしてみると大倉くんは頷いた。


「そう。そのボーリング。」


「まあ、できるはずだけど…それが何か?」


さっきまでの話と何か関係があったんだろうか、それとも単にまったく違う話に変えたのか。首をかしげてみた。


「来週さ、部署全体で飲み会あるんやけどその後ボーリング行くことんなってんねん。」


どうやら、まったく違う話をし始めたみたいで私はなんだか腑に落ちないような気分になる。大倉くんの質問に真面目に答えてしまった自分が恥ずかしい。


「へえ。」


「けど俺ボーリングやったことあらへんし、ぶっつけ本番で恥かいたら嫌やからその前に一回行ってみたくて。」


「…それで?」


「ひとりで行くのってなんかダサいから誰か連れてこう思うてたんやけど。明日休みやろ?」


なんだ。そういうことか。

私にボーリングに来いとね。


「休みだけど…、」


「え、なんか予定あるん?」


大倉くんは驚いたような顔をした。私にだって予定くらいあるよ、と言いたかったけど生憎威張れるような予定でもない。


「一応、彼と会うことになってて。多分…別れ話。」


明日のことを考えるとすこし憂鬱な気持ちになる。


そしててっきり、大倉くんからは恐縮したような反応が返ってくるかと思ったら、違った。


「それやったらその後でええよ。ボーリングならオールナイトでできるとこあるみたいやし。ちょうどいいんちゃう?泣きながら思いっきり玉転がせばストレス発散にもなるやん。」


にっと笑ってそう言うから、その傍若無人ぶりは感心すらしてしまうもので。

私は断るのも忘れて呆れ笑いを浮かべていた。




「まあまた明日連絡するわ。病み上がりサンははよ寝えへんとまたぶっ倒れんで。」


一度おおきなあくびをしてから「じゃあな」ってポケットに手を入れて大倉くんは帰っていった。




虫の声に包まれながら私はため息をつく。

雲はゆっくり流れて、下弦の月は満月のちょうどぴったり半分だった。








「満たされない若者たち」→←*



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蒼 夢見子(プロフ) - すぅさん» すぅ様、初めまして。コメントありがとうございます^^私には勿体無くも有難いお言葉いただけてとても嬉しいです(涙)これからも楽しんでいただけるものを書けるよう頑張ります! (2018年12月3日 11時) (レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
すぅ(プロフ) - こんばんは。今まで読んできた小説のなかで一番素敵な物語です。これからも応援しています (2018年12月3日 0時) (レス) id: 6e6892a55b (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 茜音さん» 茜音様、こんにちは。こちらにもコメントいただけてとっても嬉しいです...(涙)この間とはすこし違ったいたずらで甘い大倉くんを書きたいなーと思い書き始めました。そう言っていただけると俄然執筆への意欲が湧いてきます!ありがとうございます^^ (2018年11月21日 10時) (レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
茜音(プロフ) - こんにちは!こちらのお話にもコメント失礼します。優しいんだか冷たいんだか分からない大倉くんとっても魅力的です好きです(;_;)ヒロインちゃんが幸せになれることを密かに願いながら応援しております、、、! (2018年11月21日 0時) (レス) id: c4843d23a9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2018年11月13日 22時

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