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このマンションの屋上は、いつも誰もいない。


そもそも自由に出入りできる屋上があることを他の住人は知らないのかもしれない。

私はここに住み始めて以来、夜にはたびたびここへ来る。

ただ何をするわけでもなく、柵に寄りかかりながらぼうっとして、たまにお酒を飲む。ひとりで。


今日ばかりは体の具合も気分も最悪で、はやく寝ようと思ったけどベッドに横になってもまったく寝られそうになかった。ここへ来てすこしアルコールを入れてぼうっとしていれば眠くなってくるんじゃないか、と思ったのだ。


月明かりは煌々と降り注ぐ。


手に持っていた発泡酒の缶に口をつけてひとくち飲むと、ポケットの中の携帯がこまかく動き出した。


着信は、亮から。

私は3秒ほど出るか出ないか迷い、携帯を耳に押し当てた。



「もしもし?」


「あ、もしもし。俺やけど…」


亮の声を聞くのはしばらくぶりで、すこしくぐもったような掠れ声が耳をくすぐる。


「久しぶり。どうしたの?」


私はなるべく単調な喋り方をした。自分のためだ。


「あんさ、今月末またホーリー預かってもらえへん?金曜の夜から日曜の夜までなんやけどさ…

結婚記念日やから泊まりでどっか連れてってやろう思うてんねん。」


それを聞いてつい、ちいさく笑ってしまう。

結婚記念日。そうか、もう一年経つ。


「…きっと喜ぶね、亜紗美ちゃん。私はいいよ全然。ホーリーお利口だし、月末は多分何も予定入ってないから大丈夫。」


「マジ?助かるわ。めっちゃええみやげ買うてくる。」


亮はとても明るい声を出した。


「Aは元気なん?」


「うん。元気だよ。」


「また近々飲みにでもいこうや。」


「そうだね、行こ。」


「ほな…また連絡するわ。遅くにゴメンな。」


「うん。亜紗美ちゃんによろしく。」


「ん。おやすみ。」


「おやすみ。」



通話が切れたのを確認して、私はうっすら笑みを浮かべながらため息をついた。もう今日何度目のため息だろうか。


長年恋愛において上手くいった試しがないのを亮のせいにするのはお門違いだってことはわかっているし、

亮が寂しいときに私をご飯に誘ったり用事がある時に飼っている犬を預けてきたりするのは私を都合のいい女だと思っているわけではなくて『もっとも信頼している女友達』だと思ってくれているのも知っている。



それだけに、残酷なんだ。







*→←「満月の夜、海底深く」



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蒼 夢見子(プロフ) - すぅさん» すぅ様、初めまして。コメントありがとうございます^^私には勿体無くも有難いお言葉いただけてとても嬉しいです(涙)これからも楽しんでいただけるものを書けるよう頑張ります! (2018年12月3日 11時) (レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
すぅ(プロフ) - こんばんは。今まで読んできた小説のなかで一番素敵な物語です。これからも応援しています (2018年12月3日 0時) (レス) id: 6e6892a55b (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 茜音さん» 茜音様、こんにちは。こちらにもコメントいただけてとっても嬉しいです...(涙)この間とはすこし違ったいたずらで甘い大倉くんを書きたいなーと思い書き始めました。そう言っていただけると俄然執筆への意欲が湧いてきます!ありがとうございます^^ (2018年11月21日 10時) (レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
茜音(プロフ) - こんにちは!こちらのお話にもコメント失礼します。優しいんだか冷たいんだか分からない大倉くんとっても魅力的です好きです(;_;)ヒロインちゃんが幸せになれることを密かに願いながら応援しております、、、! (2018年11月21日 0時) (レス) id: c4843d23a9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2018年11月13日 22時

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