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「満月の夜、海底深く」 ページ1








人生なんて、理不尽なことばかりだ。


罰当たりなことを言うようだけれど、たとえばご飯が美味しかったとか、夕暮れ時の空が綺麗だったとか、満員電車でたまたま座れたとか、そんなささやかなしあわせなんてあっという間にかき消されて忘れてしまうくらい、理不尽なことばかりなのだ。


たまに水面に顔を出して酸素を吸うことができる時間より、海底に潜っていなければならない時間があまりにも長すぎる。




私は今日も、息のできない深いところにいる。

しかも今日は、別段深い。




吐き出された深いため息は途方に暮れそうな虚しさを私に教えてくれる。

夏の夜空は晴れていた。まんまるい月は憎々しく明るく光っていて、湿り気をふくむ空気は肌にくっついてくる。





今日は、まったく散々な日だった。厄日とはまさしくこんな日のことを言うのだと思う。


朝から体が重くてだるくて、どう考えても不調だった。

けれどそれくらいで仕事を休むわけにはいかない。一日休んだだけで次の日の仕事の量は倍以上。それじゃなくたって残業でほとんど毎日午前様(・・・)の日々なのに、これ以上未来の自分に負荷をかけたくなかったし、上司に嫌味を言われるのもゴメンだから体を引きずって出社した。

こんな日に限って仕事の量が多い。

思うように働いてくれない頭と体を必死に動かしてなんとか定時まで仕事をし、先輩に白い目で見られながら退勤――早退しているわけではないのにそれもまったくおかしな話だけれど――した。



厄はこれでは終わらない。



帰り道、私はなんと遭遇してしまったのだ。

彼氏の浮気現場に。


最高の大トリだと感動せざるを得ない。


なんとなくそんな気はしていた。いつからだか――ひょっとしたら、最初からだったのかもしれない――私たちは他人になっていた。

お互いのために時間を費やせば費やすほど私は彼のことがわからなくなっていったし、きっと彼もそう思っていたはず。


それでも、とっくに私には向けられなくなった笑顔を私よりずっと綺麗で健やかそうなひとに向けられているのを目の当たりにすると愕然とした。



そして結局最後は愚かで哀れな自分への虚しさで胸がいっぱいになってしまう。




満月の明かりの中、私はもう一度大きなため息をついた。






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蒼 夢見子(プロフ) - すぅさん» すぅ様、初めまして。コメントありがとうございます^^私には勿体無くも有難いお言葉いただけてとても嬉しいです(涙)これからも楽しんでいただけるものを書けるよう頑張ります! (2018年12月3日 11時) (レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
すぅ(プロフ) - こんばんは。今まで読んできた小説のなかで一番素敵な物語です。これからも応援しています (2018年12月3日 0時) (レス) id: 6e6892a55b (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 茜音さん» 茜音様、こんにちは。こちらにもコメントいただけてとっても嬉しいです...(涙)この間とはすこし違ったいたずらで甘い大倉くんを書きたいなーと思い書き始めました。そう言っていただけると俄然執筆への意欲が湧いてきます!ありがとうございます^^ (2018年11月21日 10時) (レス) id: d57fe18bd1 (このIDを非表示/違反報告)
茜音(プロフ) - こんにちは!こちらのお話にもコメント失礼します。優しいんだか冷たいんだか分からない大倉くんとっても魅力的です好きです(;_;)ヒロインちゃんが幸せになれることを密かに願いながら応援しております、、、! (2018年11月21日 0時) (レス) id: c4843d23a9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2018年11月13日 22時

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