蜃気楼*9 ページ9
*
ざ、と荒くブレーキを踏み車を停める。
テディベアを抱いて車を降りた。
すぐ近くで寄せては引いている波の音がものすごく遠くに感じる。
ひろと2人で何度もきた、思い出の海……
……でももう、隣にひろが立つことはない。
陽が少し昇り始めて、俺と2匹のテディベア以外誰もいない海岸が少しずつ明るくなる。
「……26年前、お前が生まれた日に、こんなことしてごめんな」
独り言のように呟き、ざば、と海に足を踏み入れた。
ひろにもらったデニムが濡れて重たくなる。
ざばざばと音を立てながらどんどん足を進める。
「ごめんな、ひろ、ごめん、守れなくて、ごめん……」
肩まで水に浸かる深さまできた。
もう服が重たいのも気にならなくなっていた。
あと、3歩……
そう思って足を踏み出そうとした時、正面から来ていた波に頭からのまれた。
その波でテディベアが1匹さらわれてしまった。
波に揺られるそいつは、俺のテディベア……
必死に手を伸ばす。最期くらい、一緒に……
"だめ、ふじがや、"
"生きて"
……そんなこと言われたことない。
ひろはもういないしこれからも言われることはない。
言われたことがないはずの言葉は間違いなく俺の耳に響いた。
幻聴?いよいよおかしくなっちまったのか。
流されていく俺のテディベアに手を伸ばすも、俺の意思と関係なくぐっと体が強ばってしまってそれ以上動けなかった。
諦めて、ひろのテディベアだけを連れて海岸に戻る。
海の方を振り向いた時、それまで力が入っていた足から突然力が抜けて膝から崩れ落ちた。
ぎゅう、とずぶ濡れになってしまったテディベアを抱きしめる。
…ひろにそうしていたように。
「お前のいない世界で、どうやって生きていけって言うんだよ………」
涙が頬を伝う。
ぼんやりと滲んでいく視界の中、昇っていく陽を見つめる。
「…ひ、ろ」
昇っていく陽の光の中、
大好きな人の影がそこに見える。
とうとう、幻覚まで見えるようになったらしい。
そのままぼうっと見つめていると、少しずつ薄れていくのがわかる。
「……だめ、行かないで!ひろ……!」
力の入らなかった足に力を込めて立ち上がり、ひろに腕を伸ばすも、砂に足を取られてそれ以上近づけなくて、そのままひろは白い光に包まれて消えてしまった。
「ひろ…………ひろっ………」
歪む視界の中、俺も意識が薄れていった。
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しょこら(プロフ) - Hina.Tamaさん» Hina.Tama様、お読みいただきありがとうございました!!そう言っていただけて嬉しいです。。゚(゚´ω`゚)゚。 (2018年7月27日 0時) (レス) id: ef72d80421 (このIDを非表示/違反報告)
Hina.Tama(プロフ) - しょこらさん初めまして。本編完結おめでとうございます!ハラハラドキドキな展開に毎日更新を楽しみにしていました。素敵なお話本当にありがとうございました!! (2018年7月27日 0時) (レス) id: ca7c7000b2 (このIDを非表示/違反報告)
しょこら(プロフ) - 日美さん» 日美様、ありがとうございます!そのように言っていただけて本当に嬉しいです。゚(゚´ω`゚)゚。 (2018年7月27日 0時) (レス) id: ef72d80421 (このIDを非表示/違反報告)
日美(プロフ) - 初コメ失礼します。更新お疲れさまでした。初めて更新されたときから毎回更新がとても楽しみな作品でした。とても大好きなお話です!また次のお話も楽しみにしています……!! (2018年7月26日 23時) (レス) id: 86fe79ef6e (このIDを非表示/違反報告)
しょこら(プロフ) - askiiii...xxxさん» ありがとうございます!更新頑張りますのでよろしくお願いします!⊂*`∀´⊃ (2018年7月18日 10時) (レス) id: ef72d80421 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しょこら | 作成日時:2018年7月13日 12時