蜃気楼*4 ページ4
*
「なぁ、なんで俺を置いていっちまったんだよ、太輔………」
テディベアに、なんとなく、話しかけてみる。
もちろん反応はない。
テディベアをくれたときの太輔の笑顔を思い出して、やっとクリアになった視界がまた滲む。
どれほどそうしていたかわからないが、
外もまだ暗い午前3時頃に、ふと思い立って、2人の思い出の海に車を走らせる。
海に着いてもまだ周囲は暗く、連れてきた俺の分身と一緒に車を降りる。がさがさと持ってきた道具が立てる音が静かな海岸には少しうるさかった。
鍋ってこんな使い方して大丈夫なのかな、と思いながら、砂浜の上に置く。
別に使い物にならなくなれば、新しいものを買えばいいし。
その中に俺の分身を入れて、火をつけた。
繊維が焼ける匂いとともにぱちぱちと音を立てながら炎は燃え盛り、
あっという間に俺の分身は灰になった。
その灰を必死にかき集めて手のひらに乗せ、波打ち際へと歩み寄る。
「太輔、覚えてる？この海でのこと」
「太輔が、告白してくれたのは、ここの海だったよな」
「太輔が、俺と一生を誓ってくれたのも、ここの海だった」
「なぁ、もう、こいつも、お前がいないと、意味ないんだけど」
赤く燃え始める空に向かって話しかける。
もうすぐ陽が昇る。
涙が頬を伝うのがわかる。太輔はもう帰ってこない。
「俺の代わりに、せめてお前の傍に置かせて……」
ぶわっと俺の言葉を待っていたかのように俺の背後から風が吹く。
その風は俺の手のひらの上の灰を海に向かって舞い上がらせた。
俺の視界を遮るように舞い上がった灰の奥に、陽が昇っていくのが見える。
そして、さらにその奥に……大好きな人の影。
「太輔っ……！」
きっと幻でも見ている。だって太輔はもう帰ってこない。
頭ではわかっていても反射的に体がその後ろ姿をおってしまう。
両腕を伸ばし、その体を抱きとめようとすれば、視界が白んで太輔は姿を消してしまった。
「行かないで！消えないで！太輔……！！！」
*
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 289人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しょこら(プロフ) - Hina.Tamaさん» Hina.Tama様、お読みいただきありがとうございました！！そう言っていただけて嬉しいです。｡ﾟ(ﾟ´ω`ﾟ)ﾟ｡ (2018年7月27日 0時) (
レス) id: ef72d80421 (このIDを非表示/違反報告)
Hina.Tama(プロフ) - しょこらさん初めまして。本編完結おめでとうございます！ハラハラドキドキな展開に毎日更新を楽しみにしていました。素敵なお話本当にありがとうございました！！ (2018年7月27日 0時) (レス) id: ca7c7000b2 (このIDを非表示/違反報告)
しょこら(プロフ) - 日美さん» 日美様、ありがとうございます！そのように言っていただけて本当に嬉しいです｡ﾟ(ﾟ´ω`ﾟ)ﾟ｡ (2018年7月27日 0時) (レス) id: ef72d80421 (このIDを非表示/違反報告)
日美(プロフ) - 初コメ失礼します。更新お疲れさまでした。初めて更新されたときから毎回更新がとても楽しみな作品でした。とても大好きなお話です！また次のお話も楽しみにしています……！！ (2018年7月26日 23時) (レス) id: 86fe79ef6e (このIDを非表示/違反報告)
しょこら(プロフ) - askiiii...xxxさん» ありがとうございます！更新頑張りますのでよろしくお願いします！⊂*｀∀´⊃ (2018年7月18日 10時) (レス) id: ef72d80421 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：しょこら
| 作成日時：2018年7月13日 12時
