蜃気楼*3 ページ3
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その後、親御さんが来たり、何なりで、バタバタと時間が過ぎた。
深夜、帰宅して、どっと疲れが押し寄せ、同時に、太輔の死に初めてひとりで直面して、ぼろぼろと涙がこぼれた。
信じられない。どうして太輔が?
太輔が、一体、何をしたって言うんだろう。
世間でいう不慮の事故というものであろうと想像はつくが、
そんな軽い言葉で片付けられてたまるかと怒りまで沸いてくる。
太輔をはねた車の運転手の男は、俺にも親御さんにも、本当に平謝りという様子で、そうするしかないのもわかるが、
そんなことされたって太輔は帰ってこない、なんて子供じみた考えばかりが浮かんできてしまって、
冷静に謝罪を聞く気にもなれなかった。
ぼんやりと、今日一日のこと、それから、今まで太輔と過ごした日々のことを、思い返す。
あいつ、あんなにモテそうな感じのくせに、俺に告白した時、声が震えてて、なんなら、手まで震えてたっけ。
俺がOKしたら、泣くんじゃないかって顔しながら俺に飛びついてきたっけ。
初めて、デートをしたのは、大学からは少し離れた映画館だった。
人目を気にして大学のそばを避けた結果だった。
観たのは確か、流行りのアクション映画だった。
初めて、キスをしたのは、俺の部屋だった。
あの時は、たしか、俺からで、びっくりするくらい緊張していて、歯がぶつかりそうな勢いでキスしてしまって、
驚いたような、嬉しそうな太輔の表情は、今でも忘れない。そのあとで、優しいキスをくれた。
初めて、体を重ねたのは、太輔の部屋だった。
緊張で体がガチガチに固まってる俺を、ゆっくりとほどくように扱ってくれて、そんな太輔に、ドロドロに溶かされて、甘やかされた。
痛みを伴ったはずの初体験の記憶は、今でも少しも苦しいものではない。
初めて誕生日にプレゼントをあげた時、太輔は子供みたいにはしゃいで喜んだ。
あげたのは、太輔の好きなブランドのデニムだった。
初めての俺の誕生日には、テディベアが送られてきた。
まだ一緒に住んでいなかった頃、太輔がくれたものだった。
「これがひろので、こっちが俺のね」
「なんで2匹?」
「分身!俺に会えなくても、寂しくないように」
つまり俺に手渡されたテディベアは、太輔の分身、太輔の手元に残るのが俺の分身、だったらしい。
今は、太輔の分身と俺の分身は、隣に座っている。
ぼろぼろになる俺を、2匹で見つめている。
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しょこら(プロフ) - Hina.Tamaさん» Hina.Tama様、お読みいただきありがとうございました!!そう言っていただけて嬉しいです。。゚(゚´ω`゚)゚。 (2018年7月27日 0時) (レス) id: ef72d80421 (このIDを非表示/違反報告)
Hina.Tama(プロフ) - しょこらさん初めまして。本編完結おめでとうございます!ハラハラドキドキな展開に毎日更新を楽しみにしていました。素敵なお話本当にありがとうございました!! (2018年7月27日 0時) (レス) id: ca7c7000b2 (このIDを非表示/違反報告)
しょこら(プロフ) - 日美さん» 日美様、ありがとうございます!そのように言っていただけて本当に嬉しいです。゚(゚´ω`゚)゚。 (2018年7月27日 0時) (レス) id: ef72d80421 (このIDを非表示/違反報告)
日美(プロフ) - 初コメ失礼します。更新お疲れさまでした。初めて更新されたときから毎回更新がとても楽しみな作品でした。とても大好きなお話です!また次のお話も楽しみにしています……!! (2018年7月26日 23時) (レス) id: 86fe79ef6e (このIDを非表示/違反報告)
しょこら(プロフ) - askiiii...xxxさん» ありがとうございます!更新頑張りますのでよろしくお願いします!⊂*`∀´⊃ (2018年7月18日 10時) (レス) id: ef72d80421 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しょこら | 作成日時:2018年7月13日 12時