乞ウモリ (ページ8)

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beg.7 / two －someone ページ8

「…ありがとうございました」

診察が終わり
病院を出る際に、一言だけそう言う。

先生は、優しく笑って見送ってくれる。

『話してもいいんだよ』と言ってくれるけれど
頷くことしか出来なくて。

車に戻り、
運転席に座りハンドルに頭を乗っけて

溜めていた息を吐き出す。

長い溜息が車内中に広がり
もっと気分が重くなる。

チラリと見上げて見えた、
フロントガラスの外の月を見て

太陽を見たのは何年前(いつ)だろう、と思った。

太陽の下で小鳥が囀るのと

月の下で梟(フクロウ)が啼くのとじゃあ、

全く違う。

クレヨンで太陽を描いてごらん、と言われても

きっと、もう描けない。

「いつからだっけ…」

昔は、僕だって太陽を見れた。

簡単に描けた。

なのに、いつからか

太陽を見るのはアイツで

月を見るのが僕の役目になった。

『俺、夢が出来た』

『ジャニーズに入ろうと思うんだ』

それを読んだ時は、嬉しかったはずなのに

その結果、こんな目に合うなんて。

「……っチッ」

視線をサイドウィンドウに映すと
そこに映ったのは、嘲笑うかのような笑みのアイツ。

アイツを見て、怨恨を抱くようになったのは
いつからだっけ。

心臓が痛んだ、というメモを読んだとき
自分の表情が嘲笑に染められた気がした。

それを、悪いとも思わない自分は
悪人になってしまったのだろうか。

それとも…

「……いや、…アイツでしょ」

“ 共有 ” という優しさを潰したのは

僕の怨恨ではなく

アイツの夢だ。