beg.38 / それは幸か不幸か −A ページ39
「送ってくれてありがとう」
「ん、大丈夫だよ」
彼のマンションに着き、車を停めると
申し訳なさそうに彼がそう呟いた。
「…相葉くん」
「ん？」
「なんで…、…黙っててくれたの？」
時計で言えば頂上を回りそうな時間、
真っ暗な車内で、彼は尋ねてきた。
彼を照らす灯りを探す俺みたいに
闇夜が、ひたすらに揺らいでいる。
「…ニノには悪いけど
誰かの為を思うなら、正しいことばっかやってらんないでしょう。
生半可な気持ちで、松潤に起きてることを見てるわけじゃないから」
俺の方を見ない松潤を真似て
俺も前を見たまま、紡いだ。
隠していたことがバレてしまった時
全てを晒そうと思う人も居れば
他はバレたくない、ともう一つの秘密を隠す人も居る。
彼が後者だとは分かっていたから
彼の大切な秘密を、簡単にバラそうなんて思わなかった。
心配するニノに話すのが正しいことだとしても
彼を思えば、正しくないことでも躊躇わなかった。
「……あいばくん」
隣から聞こえてきた弱々しい声に振り向くと
俺のその視線をなぞるようにして、
彼もこちらを振り向いた。
雲から顔を見せた月の明かりが
彼の顔を半分照らす。
怖々と揺れる彼の瞳を濡らす涙が
月の明かりで、哀しく輝く。
「あいばくん…っ」
「ん…、大丈夫」
そっと頭を抱き寄せると
彼は、
きゅ、と俺の服の袖を握る。
「……ちが、うの…」
「ん…？」
「ぜんぶ…、おれ、じゃな…っ」
「どういうこと…？」
フルフルと首を横に振ってそう言い
俺から少し体を離し、
そっと、もう一つの心臓に手を当てた。
「ん…？」
彼の動作がよく分からなくて、
首を傾げる。
すると彼は、
そっと、口を開いた。
「ココに…、もう一人、居るの」
その瞬間
月明かりが、
彼の顔全体を照らした。
彼は
自分に近付く唯一の人物に
俺を選んだんだ。
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作者名：つむぐ
| 作成日時：2019年3月26日 2時
