乞ウモリ (ページ32)

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beg.31 / 夜が惹き寄せたもの－N ページ32

細い路地だから

交通人も居なくて

変な目で見られることもない。

数分待っていると

ガタン、と後ろから音がして
エレベーターが着いたんだと分かる。

コツ、コツ、と足音が近付いてきて

スッ、と
待っていた人が横を通った。

何かを見ながら歩いていて、

俺には全く気付いていない彼に

背中越しに声をかける。

「潤くん」

ビクッと

異常なほど肩を跳ねさせて

足だけ止めて、後ろは振り向かない。

「ふは、無視しないでよ」

俺らの、数メートルの距離に
風が嘲笑うようにすり抜けていく。

それまでもが、俺をイラつかせる。

「……っな、んで…っ」

一向に振り向かない彼も

俺を、イラつかせる。

「偶然だよ。

……偶然、全部知れたの」

「…っ！」

その言葉に驚いたのか

勢いよく俺の方を振り向き

その内容を知りたいような表情をする。

「…悪徳医師、でしょ？」

もっと焦るんだろうと思っていたのに

その言葉に、

彼はどこかホッとしたような様子だった。

隠そうとしてるんだろうけど

強張っていた表情が柔らかくなったのを見逃さなかった。

─────────…まだ何かある？

そう思ったけれど

それよりも脳内を占めているのは

彼が、ココに通っているということ。

「…何でこんなとこ通ってるの」

「それは…っ」

「大きい病院ならいくらでもあるだろ」

「……っ、」

何の言い訳も無く

何の弁解もしない彼の戸惑いが

尚更、俺の怒りを膨らます。

体内に溜まった怒りは、

もう限界だった。

「何で自分の体もっと大事にしないんだよ！！」