乞ウモリ (ページ30)

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beg.29 / 夜が惹き寄せたもの－N ページ30

「ありがとう、美味しかった」

「こちらこそいつもありがとうございます。
またいらっしゃってくださいね、二宮さん」

1時間半程呑んで、そろそろ帰ろうと席を立ち

それに合わせて、店長が挨拶に来てくれる。

会釈をして店を出て、車に戻り

ひとつ溜め息を付く。

「…やらかした」

局の駐車場に行ってから車で来ていたことを思い出し
今日呑めないことに気付く。

今更店は断れないし…と考えた挙句

アルコールなしの外食。

健康マニアか。

「帰ってちょっと呑むか…」

そう決めて車のエンジンをかけると
店の駐車場から見える細い路地から、
見覚えのある姿が見えた。

「……潤くん？」

エンジンを止めて車から出て、
声をかけようとすると

何かを思い出したような表情をしてから、
近くの雑居ビルに入って行った。

街灯でよく見えるから、彼に間違いない。

病院じゃなかったっけ？と思い気になって、
その雑居ビルへ足を向けると

備え付けのエレベーターは、5階で止まった。

エレベーターの近くにある看板らしきもので確認すると
そこには、

“ 阿刀(あとう) 櫂(かい) ”

と書いてある。

「……、」

胸の奥がザワザワして

どこか、嫌な予感が湧き上がってくる。

少し焦る気持ちに見て見ぬフリをして

感情に任せて、医者の友達に電話をかける。

コール音を聞きながら、
頼む、早く出てくれ…と、貧乏ゆすりが止まらない。

『…っは「もしもし！」…っ、なんだよ驚かせるなよ』

「ごめん、あのさ、阿刀櫂って奴知ってる？」

発破をかけるように尋ねる。

返答を急いだくせに

彼からの返答が、

自分の勘と一致するのが怖い。

首元に、

一筋、冷や汗が伝った。

『阿刀櫂…、

……あぁ！

そいつ、悪徳医師だぞ』

嗚呼、ほら。

俺の勘は、無駄によく当たるんだ。