乞ウモリ (ページ24)

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beg.23 / 無知は至福－A ページ24

「松潤」

何も答えなくなってしまった彼に

力強くそう問うと

ユラユラと揺れていた瞳が、

今度は俺をちゃんと捉えた。

「…もう少し、待って…、時間が欲しい、」

けれどそれは、未だ弱々しいもので。

彼のためになると思っていたのに

そんな瞳を見せられたら
間違っていたのかと勘違いしてしまう。

「…分かった」

せめてもの覚悟がそれなんだろう、と

首を縦に振った。

「それで…体調悪いのは、大丈夫なの？」

「ん、それは全然…」

暗くなってしまった空気をなんとかしようと
違う話を振るけれど

彼は滅入ってしまっていて、
俯いて口数が減ってしまった。

「……ごめん。

様子が変だったから、何かあったのかと思って

力になれるかも、って…、無理強いだったね」

心の中心にあったはずの正義感は

湧き上がってくる罪悪感に押し潰されて。

それを拭うように、

謝罪の言葉が出てきた。

「いや、ちがう…っ、相葉くん、悪くないよ」

彼がこう言うしかないなんて、分かってるくせに。

“ ありがとう ”

そう言おうとしたら、
彼の瞳が、急に力強いものに変わった。

「でもね、相葉くん」

しっかりと俺を見つめてくるその瞳に
少し、躊躇う。

「今度、深夜に俺と会ったら

無視してね。

視界にも、入れなくていいからね。

…存在ごと、無視したらいい」

力強い瞳と

さっきより、明らかにハッキリした口調と

有無を言わせない表情に

足が竦む。

一瞬にして、纏う空気を変えられる彼は

マジシャンのようだ。

「……うん、」

さっきの弱々しい彼は

俺が見た幻だろうか。

彼の巧みな演技だろうか。

知らなくていいものを知ってしまった俺を

心の中では、嘲笑っていたのだろうか。

今目の前にある、

思い通りに頷いた俺に向けた、

色の無い微笑みのように。