事件20件目 ページ21
彼女は自分が追ってきたのを見つけると
座っていたベンチから立ち上がって
口元を手の甲で隠した
それからさっきと同じように貼り付けた笑み
無理してる
でもそれは自分のせいで
もう気持ちを素直に言ってしまえばいいと思った
A「ごめんなさい。私、浮かれてました。神谷さんにとって私は特別だって思ってしまったんです」
A「そんな確信はないのに、バカだなあ私」
貴方は僕にとって特別なのは変わりないのに
浮かれたって良かったのに
自分は初めから貴方しか特別じゃなかった
開いた距離がもどかしいほど貴方に寄り添いたい
そんな顔をさせてしまった代わりに
自分がこれから一生笑わせてあげたい
震えてる声
想い伝えなかったら勘違いされたままだ
A「本当にごめんなさい」
彼女は背を向けて歩いていく
彼女の口元を押さえた手はまだそこにある
このままになんてしたくない
するのならキッパリ想いを伝えた方がスッキリする
そもそもここで引き下がるつもりなんてない
彼女の左手をスッと力が入りすぎないように掴む
「Aさん！」
もう思ったこと
全て伝える覚悟で自分を見てない彼女を見つめた
彼女の手は震えてた
自分が彼女をこんな事にしたんだ
そう思ったけど早まる気持ちは抑えられなかった
「貴方だけです。側にいたいのも、一緒に笑い合いたいのも、素の自分を出せるのも」
「好きです、貴方が」
どれだけこの言葉を口に出すのに躊躇しただろうか
でも今はどう返事されても構わない
自分はこの人、この人だけが好きだ
他の人なんてどうでもいい
貴方が俺の前で笑ってくれればそれでいい
自己中だろ
そんなの恋愛だったら当たり前だ
自分と相手が幸せであれば
他の人からどんな風に見られようが
俺は構わない
「貴方と出会って！
貴方に恋をして！
貴方に会うたびに心が暖かくなって！
離れたくなくて！
貴方の笑顔が忘れられなくて！
……こんな感情になったのは貴方が初めてだ」
引かれても構わない
俺が想ったこと全部伝える
そうすれば貴方はまた
俺の前で笑ってくれると思ったから
「貴方が...好きだ、好きで好きで...どうしようもなく、貴方が愛しい」
ああ
恋って辛いんだ
初めて女の人が恋愛に抱く苦しみを味わった気がして
涙が自分の爪先にある地面を濡らした
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