�� - 001 明日のことは心配するな ページ1
.
幸せが壊れる時はいつも──血の匂いがする。
「
その童子は実の妹に牙をむかれていた。皮膚を容易く突き破るだろう鋭利な牙を光らせ、獣のように喉の奥から唸り、理性も知性も欠け落ちた目玉を見開く、最早妹と呼ぶには変わり果て過ぎたその───"鬼"。
鬼だった。それはもう君の妹なんかではなくただ腹の空くまま本能のままに人間を喰らう化け物だ。だからいくら抵抗したって君が食われる未来は何ら変わりない。その爪を、牙を、一体いつまでそんな棒切れで止めることが出来るか。
無謀だ。君は死ぬ。そして君の妹も死んだ。もうそこにいるのは君の妹でもなんでもない。
やめるんだ、ただただ逃げるがいい。
「うっ、い、やだ！ 千豆子……！！ 目を覚ますんだ！ 頼む！ 私だ！ お前の──」
「うがぁぁぁ！！」
ギッと悲鳴。ほらだから言った。そんな棒切れは無駄も無謀だと。そんなもの鬼はいとも簡単に砕いてしまう。そして君の頭部に歯という歯を沈みこませる。食らいつく。
顔の左半分を赤い鮮血が覆い尽くしていく。左眉のすぐ上に親指で空けられた位の穴が牙の数だけ出来る。ドクドク、ドクドクと垂れ流される人体にとって必要不可欠な血液。
童子は呆然に近づいていく意識のなかで、まさしく鬼の形相となった妹を見つめていた。
嗚呼──自分はこのまま死ぬのかという諦めを、口にせずとも心の中で零す。
でもいけない。と身体に力を込めたのは"妹に鬼になった上理性をなくしていたとはいえ、家族を喰い殺してしまったという咎"を背負わせる事だけは、絶対にしてはならないと思ったからだった。
「千豆、子……ッ」
惨劇が引き起こされる直前。すぐ燐家からも悲痛な叫び声が聞こえたからだった。童子の大切な友人とその彼の大切な家族が隣に住んでいたからだった。
童子は死にたくない、のではなく。己の命を惜しむのではなく。死を恐れるのではなく。ただただ心の底から純粋に妹を、誰かを想い、身体を無理やり起こして見せた。
「千豆子……、大丈夫、だ、痛くなんか、なっい」
鬼は唸るだけ。弱々しく口角をあげる様は無様としか言いようがない。鬼が笑い返すわけもない。
「苦しいよな、千豆子」
痛覚が麻痺を起こす。焼け爛れるようだった激痛が今やほぼ無いに等しくなった。童子は不格好な笑みを口許に浮かべつつ、妹だったモノに手を伸ばす。
「大……丈夫だ、千豆子お前は」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 358人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ミルクリ - 初めまして。とても面白かったです。続きが読みたいのですが�兇離僖好錙璽匹魘気┐討い燭世韻泙擦鵑�？これからも応援しております。 (2021年9月21日 12時) (
レス) id: 9baecbdda2 (このIDを非表示/違反報告)
コア - 面白かったです �兇離僖好錙璽俵気┐督困韻襪藩�難いです (2021年6月29日 20時) (レス) id: cdf587c2d2 (このIDを非表示/違反報告)
莉亜(プロフ) - すごく面白くて一気に読んでしまいました！！！続きのパスワードって教えてもらえますかね？これからも頑張ってください (2021年5月14日 22時) (レス) id: 6a10e782a2 (このIDを非表示/違反報告)
me(プロフ) - おもしろくてとまらなくなりました！守護聖人IIのパスワード教えていただきたいです！ (2020年12月15日 20時) (レス) id: 833cf0aedc (このIDを非表示/違反報告)
糸針シナ(プロフ) - 楓さん» 楓さん、コメントありがとうございます！ひえ〜嬉し過ぎます…！そんな風に言っていただけて後衛の極みです〜！長編が好きなものでこの守護聖人も他作品もすごく長いですが楽しんで頂けたらと思います！短編もあるので宜しければ覗いて行って下さい〜 (2020年3月11日 8時) (レス) id: 2d5e82106c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：糸針
| 作成日時：2019年10月25日 13時
