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まずは鍵と忘れ物がありましたよ。という報告。
塩素を入れて濃度を測ってきたというのも忘れない。
日高先生の顔色を慎重に伺う。いけるかな、大丈夫かな、と思って話していれば 笑顔のまま「で、」と向こうが主導権を握る合図だ。やられた、慎重になりすぎた。
「その子は誰かな?」
私の後ろに控えていた廣瀬くんに、まるで“今見えました”みたいな感じの視線を浴びせる日高先生。喉カラッカラ。なんていうかな、私はよく分からないけどビールが飲みたい。浴びるほど飲んでこの緊張を忘れたい。
「2年生の廣瀬真人くんです。彼はえっと、S1がFrで、さっき泳いで見せてもらったら大体25、いや、24秒で泳いでましてね!」
「………」
何故こんなに私が緊張しているのか。
それはこの日高先生が中々の曲者だからである。
水泳部の全てを牛耳る日高先生。
私がこの2年間で連れてきた入部候補者達を尽く門前払いしてきた張本人だ。彼のお眼鏡に敵わない人は 入部届をもらえないどころか、別ルートで届出をしても受理せず破ってしまうヤンチャさん。
ニコニコ人のいい笑みを浮かべながら足を組む様に、(ぜーったい楽しんでんだろ!)と思いつつ何とか廣瀬くんの入部を勝ち取りたい私は支離滅裂なPRを続ける。
そのうち言うことも無くなってしまって。
というより会って10分そこらの後輩について語れることなんて、原稿用紙にしたら3行くらいの国語力しか持ってない私。あっという間に口をつぐんでしまったら、後ろの彼がそっと前に出てきた。
「─── 水泳部に入部させてください」
その涼しい声に驚いて横を見る。ゆるく口角を上げた横顔が、椅子に座る日高先生をまっすぐ見下ろしていた。
「廣瀬真人くんって言ったっけ」
「はい」
「僕、君の名前知ってるよ。どうして今になって競泳に戻ってこようと思ったのかな?」
(………え?)
思わぬ言葉に耳を疑う。廣瀬くんってなんか有名な人?『今になって戻ってくる』って言い方はつまり、長いこと競技から離れていたって受け取れるんだけど、じゃあやっぱり何で あんな二つ返事で勧誘を受け入れてくれたのかな。
頭にポンポンポンッとハテナが浮かぶ私とは対照的に、まるで聞かれることが分かっていたかのように廣瀬くんは動揺することなくサラリと次の言葉を言ってのけた。
「水泳でやりたいことが見つかりました」
「やりたいこと、どんな?」
「 メドレーリレーで関東大会に出ます 」
大きく目を見開いた。声にならない声で驚いてしまったのはだって。
私の望みと彼が言っていることが、一字一句違わず同じだったから。
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祐莉 - お久しぶりです! 更新いつまでも待ってます。 (2022年10月21日 20時) (レス) id: 141db64209 (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - masayo_8さん» ゆっくり更新になりますが、是非お付き合いください😌💓水とお友達のびふぁ君たちを書きたかった…! (2022年10月8日 2時) (レス) id: 8cbda2bab5 (このIDを非表示/違反報告)
masayo_8(プロフ) - 新しい小説〜!これから、楽しみですぅ( ꈍᴗꈍ)水泳部。。。想像しただけで、よだれが。。。(笑) (2022年10月7日 8時) (レス) id: 9b3b932bb4 (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - 祐莉さん» お久しぶりです。またまた私でなんだか申し訳ない(笑)ゆっくり更新していきますので、気長にお付き合いいただければ嬉しいです(^^) (2022年10月3日 4時) (レス) id: e5900b4b59 (このIDを非表示/違反報告)
白(プロフ) - BESTY さん» はじめましてこんにちは!色々とお読みいただいているようでありがとうございます(^^)ゆっくり更新にはなりますが、楽しんでいただければ嬉しいです。 (2022年10月3日 4時) (レス) @page12 id: e5900b4b59 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白 | 作成日時:2022年9月30日 22時