月花石色-366日短編小説‐

12月3日　バラ　-ryota- ページ9

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都内某所。


細い路地を入ったところにあるこの空間は

とても静かで凛としていた。



展示の作品を見ながら物思いに耽る人、

作品の魅力に引き込まれキラキラとした眼差しを送る人、

自分の作品をどう受け入れてもらえるかとソワソワしている人、


真剣な目をして作者にあれこれ質問をなげる人






そんな人たちを会場の隅で見守る私。




ここは、アートギャラリー。


月ごとにテーマを決め
プロのアーティストだったり
または、学生の作品を展示して
後にプロデューサーとなる人とを繋ぐ場所だ。




今月は、新人の写真家数名の作品を展示してある。








「では、また近いうちに頼むよ」


「はい！、ありがとうございます!!よろしくお願いいたします！」



和装が似合う初老が
今年大学を卒業したばかりの男の子に背を向けてこちらにやってくる。




私は、スッと頭を下げた。

『井浦さん、本日はありがとうございます。』


初老は、私に気づくなり
優しく微笑んだ。


「いやいや、君が紹介している作品はどれも素晴らしいものばかりだからね いつも楽しみにしているんだ。」


柔らかく温かみのある声に

こちらも、つい口元を緩めてしまう。



『井浦さんにそう言っていただけて嬉しく思います。どうぞ彼をよろしくお願い致します。』


「あぁ、そうさせてもらうよ。彼と出会わせてくれて感謝する。ありがとう。」


このギャラリーの常連でもある井浦さんは、

実は、まだここができる前からお世話になっている方だった。

当初から父親のように見守ってくれていた恩人の言葉に胸が熱くなる。



その温かい気持ちに応えるように私は、また頭を下げた。



「…、そういえば。彼とはもう何年になる？」

井浦さんからの突然の質問に戸惑いながらも。


『…5年になります。』

「ほぉ、もう5年か‥、時が経つのは早いもんだな・・。彼とは連絡を取っているのかい？」


『いえ、…5年前から一度も取っていません。』

「そうか。最近じゃテレビで見かけない日はないからな。ちゃんと約束を守ってくれているんだね。」


過去を思い出すように、遠くを見つめる井浦さんに

私も、5年前のことを思い出す。






5年前のあの時、私たちは若かった。



美大を卒業後、空間デザインを仕事にした私は
アーティストのMVやイベントなどのセットを作っていた。



彼と出会ったのは、彼らの3枚目のシングル曲のMV撮影の現場だった。

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