100万回生きた俺。【ヒロアカ】 (ページ25)

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ヴィランに対するヒーローの存在ページ25

“脳無”というヴィランは地に伏して一ミリも動かない。

白髪のヴィランは化け物でも見るかのように俺を視界に映して、空間中にさっさと消えていった。

そうして、ようやく涙の粒が俺を地に下ろした。

俺は平衡感覚を失って、数歩進んだ後に地に座り込んだ。

『…はっ…はっ……』

俺は、自分の個性に乗っ取られたことを理解した。

“万斛の涙”

理解した以上にゾッとする個性だ。重罪人の俺よりも遥かに異常な個性。

何万回の人生の経験を以てしても、この個性よりおぞましいものはなかった。

俺は恐怖で浅い呼吸を繰り返しながら、爆豪に視線を移した。

爆豪の見開いた眼に、へたり込む自分の姿が映る。

俺は今、何をした？

脳無の脳漿が飛び散る残骸の中央に座り込む状況になるまで、涙が事を成したのだ。

俺じゃない。“万斛の涙”が、勝手にやった残骸。

『………っ、爆豪…怪我は……無いか……？』

息も絶え絶えに、俺は言葉を発した。

未だ止まることのない涙が“万斛の涙”ではなく感情に作用する涙だと分かる。

もちろん、個性による涙でもあるが…それ以上にあふれ出す熱い涙は、紛れもなく何百万年も流すことのなかった俺自身の涙だ。

爆「ｯｯ＿＿＿＿怪我してんのは、てめぇの方だろうが！！」

爆豪は、すぐに俺の傍まで来て抱き占めた。

強く、震えながら、爆豪は俺にキスをする。

脳無の残骸で服が汚れていることも気にせずに、深く深くキスをし続ける。

『っ…ん…っんぅ…ばく、ご＿＿＿』

爆「ん、…黙っとけ」

『んんっ…ふぁ……っん……』

少しずつ涙は止まっていく。

完全に涙が止まって、爆豪は唇を離す。

爆豪は、泣きそうな顔をしていた。

強気で勢いしかない爆豪が、俺を想って泣きそうになっている。

爆「バカかよ…てめぇは……っ…なんでんな無茶してんだ！
ヴィランと一緒に自分の精神までかき回してんじゃねぇよ！！クソが！」

必死に訴える爆豪。

出会ってたった2日かそこらの俺を、一生大切にするとばかりに訴える。

そんな爆豪を見ていると、俺の99万の人生は何だったんだと思える。

たった1回の、しかもたった数十年の人生を過ごしただけで人はこうも誰かを想えるものか。

誰かのために尽くそうと思えるものなのだろうか。

『爆豪、…爆豪……』

俺は名前を繰り返し呼んで、それで爆豪の手の甲にキスをした。

心臓が熱くなって、俺が未だ知らない感覚が体中を駆け抜ける。