◆ ページ7
「可哀想に、痛かったな、熱かったな…もう、大丈夫や、兄ちゃんがこれからAをずっと守ったる、もう二度とこの手は離さん、誰にも奪わせん……ああ、ごめん、ごめんな、やっぱり俺は、兄貴失格や……お前を愛してしまってごめん、幸せに出来んくてごめん。お前が悪魔に誑かされ地獄に堕ちると言うのなら、お前を愛してしまった俺も地獄行きや。地獄の業火でお前の身が焼かれへん様に、お前を永遠に抱き締めたるからな……A、愛してる。ああ、やっと言えた……！」
──たとえば、妹を犠牲にされた兄
ぼろぼろと至極嬉しそうに笑いながら涙を流す青年は今までの彼らとは違い酷く美しく見えたが、そこに滲む狂気は彼らとなんら変わりない様に思えた。
それがとても恐ろしく震えて言葉も出ないまま、柔く添えられた両手を剥がしまた蹴躓きそうになりながらも駆け出す。
私は、一体いつまで走り続ければいいんだろう？
このパレードの終わりは一体何処にある？
何処までも続いているのではと錯覚してしまうパレードに、後ろから追い掛けて来ている様なその音色と歌声に、頭が可笑しくなってしまいそうだった。
『！あっ、』
思わず声を上げ、本日何度目かも分からない妨害に行く手を阻まれる。
いや、少々大袈裟に言い過ぎてしまったかもしれない。
そぞろ歩く群衆を割る様に、道の真ん中で座り込み惚けた様に空を見上げる男が居ただけだ。
腫れっぼたい夕焼けの瞳が先程まで泣いていたのだと痛いくらいに主張し、それを覆う丸いレンズには彼の目と同じ色の空が映し出されていた。
あれ、そういえば、どうして私は走り続けられたのだろう。
何度も立ち止まりはしたがこの群衆の中を、どうしてすんなりと走って縫うことが出来た？
まるで彼らが私を避けていたかの様に、或いはすり抜けていったかの様に。
頭を激しく横に振る。
考えるな、今そんなことを考えるな。
これ以上考えては本当に狂ってしまう。
ごくりと生唾を飲み座り込む男の横を通り過ぎた時、それまでずっと黙っていた男が「また俺を捨てるん？」と恨めしそうに呟いた。
小さく肩を震わせ恐る恐る振り返ると、彼もまたこちらを振り返っていた。
お前が憎いと瞳を揺らしながらその綺麗な双眸から堰を切った様に涙が溢れ出す。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 89人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
