【d!】明日の月も綺麗でしょうね？ (ページ6)

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◆ ページ6

一体なんだというのだ、さっきの少年もあの青年も、私と誰を重ねているというのか。
得体の知れない恐怖と気味の悪さに体がとうとう悲鳴を上げ始めたのか突然込み上げる吐き気に足が止まり口元に手を当てた。
ごとり、と鈍い音が耳に入りそちらに視線を向けようとする私をまた誰かが抱き締めた。
「はァ…っ！アア…！！」と歓喜を含んだ様な声が鼓膜を揺さぶりすりすりと頭を擦り寄せてくる。
やがて満足した様に私と視線を合わせると、私と同じくらいの身長の桜色の瞳を持った少年は頬を紅潮させながら恍惚とした笑みを浮かべ口を開き文字の羅列を吐き出し始めた。

「母さん…っ！ああ、ごめん、母さんやなんて……もうあの男はおらんし、俺達は晴れて結ばれたんやもんな、何度も何度も誓いの口付けを交わした仲やもんな？もう母と息子やない、ただの男と女や。俺とAは一生違える事のない夫婦になったんや！！こんな、こんな幸福…！俺はやっと幸せになれた！根雪の下で今か今かと待ってた春がやってきたんや！！！愛してる、愛しとるよA！」

──たとえば、収穫を誤った息子

興奮した様に爛々と輝く瞳から目を逸らすと、先程鈍い音を立てて少年が地面に落としたモノと"目が合った"

それはまるで腐り果てた果実の様にぐちゃぐちゃと見るも無残な有様ではあったが、唯一綺麗に残っている眼球を視界に捉えた瞬間、飲み込み続けていた悲鳴が我慢出来ずに飛び出してしまった。
一瞬怯んだ少年の腕を振り解き逃げる様にまた走り出す。
もういやだ、訳が分からない、どうして私がこんな目に。

じんわりと涙が滲み視界がぼやけた途端、何故か足が縺れて盛大に転んでしまった。
したたか打った体にじわじわと痛みが広がりながらもなんとか起き上がったが、足に力が入らず座り込んだまま立ち上がることが出来ない。
派手に転んだというのに誰一人こちらを見ない、座り込んだ私を綺麗に避けてパレードの住人達はどんどん夕陽に向かって歩いていく。

まるで、私なんか、居ないみたいに。

孤独に心が押し潰されそうになり俯いていると両脇の下に手を差し込まれ誰かに軽々と持ち上げられた。
されるがままに立たされると私の服や膝に付いた土を丁寧に払い落とす黒髪が真っ先に目に入る、やがて全てを落とし終えると今度は私の両肩に優しく手を添え顔を上げた。
青年の、レンズ越しの紅玉の瞳は涙に歪んでいた。