【d!】明日の月も綺麗でしょうね？ (ページ17)

今日:16 hit、昨日:6 hit、合計:7,034 hit

ht. ページ17

他愛なかった一夜の話。

「おい」と少しドスの効いた低音のあとに体ががたんと揺れぽやぽやと何処かを漂い彷徨っていた意識が急速に覚醒した。

『え、なに、』

「なにじゃねーよベンチで寝るなっつったろ馬鹿。酔い過ぎだ」

ゆっくりと声を辿る様に半分開いた目を上へと上げると缶コーヒーを2つ持った同期が不機嫌そうに眉を寄せながらこちらを見下ろしていた。
そうだ、今日は会社の飲み会で、忙しくてなかなか参加出来なかった私と彼が珍しく2人とも参加が出来る運びになり、ブラックと呼んでも差し障りない会社で唯一生き残った同期と久しぶりに肩を並べて飲めるとあってハメを外し過ぎた結果、彼に支えて貰いながら(さながら介護の様に)帰路についていたのだが途中の公園で力尽き、甲斐甲斐しくも温かい缶コーヒーを買いに行ってくれた彼を座って待つという選択肢を早々に破り捨てベンチに寝転がっていた次第である。
これだけ状況説明が出来るのであれば案外酔っ払っていないのかもしれない、胃の辺りがすこぶる気持ち悪いけれど。

『夏場にさあ、クーラーでガンガンに冷やした部屋で毛布にくるまって寝るのって贅沢だし気持ちいじゃん？この重防寒装備で寒空の下冷たいベンチで寝るのも同義だと思わない？』

「訳分からん理屈を捏ねる前に体起こせぶっ叩くぞ」

『あーあー！なあんでこんなドメスティックでバイオレンスな男予備軍が女子ウケいいんだ〜！？顔は分かる、顔は！爽やかで優しくて硬派ってなんだ！？百歩譲って硬派しか合ってない！！』

「足退けろ邪魔」

『百歩譲ってやったAちゃんになんだその態度は！』

「うるせえな酔っ払いまじで」

乱雑に私の足だけを退かすと空いたスペースに腰を下ろし「ほら、その体勢で飲めるなら飲んでみろ」と未だに体を起こさない私に缶コーヒーを差し出すひとらんらんとか言う男。
足をだらんと投げ出したままじ、と缶コーヒーを見つめそろりと手を伸ばして受け取り両手を暖める様に握ると先程まで気にもならなかった手の冷たさが主張を始めそしてすぐにじんわりと熱に溶けていった。