◇ ページ16
振り払われた様に霞が晴れた時、少女は天使達に囲まれていた。
いつの間にか天使達が作った円の中心で、少女は座り込み多種多様に煌めき自分を見つめる宝石達を一つ一つ見回していく。
ああ、私の、私だけの天使達。
楽園で私を愛し守ってくれる愛しい天使。
『ほんとうはね、しっているの』
嗚呼、雷鳴が、晴天を穿つ。
第四の地平線、その楽園の正体は。
少女が瞬きを一つすると、楽園と呼ばれた場所は跡形もなく消え去っていた。
空は荒れ、木々は枯れて、花は崩れそして朽ち果てて。
腐敗した大地と見るも無惨な魑魅魍魎達が闇の底へと堕ちていく。
彼女は生まれ、彼女は痛み、彼女こそが望みの果て。
彼らの全てそのものだった。
彼らは彼女の愛をただひたすらに求め彼女との安寧を欲し、そうして彼女をここまで引きずりこんだ。
──箱舟に託された願い達は
──歪んだ恋心のままに求め合い
──理想の収穫を待ち望みながらも
──多大な犠牲を盲目のうちに払い続け
──ついには星屑にも手を伸ばすだろう
──狂おしき魔女のフェローチェ
──聖女の微笑みを称えた肖像と
──天秤に掛けられた数多の命と運命
──魔王の笛の音と共に授けられた世界の理
仮初めの楽園に集った物語達が、等しく彼女を求め気が触れた悪魔達が、第四の地平線を作り上げ一つの魂を閉じ込めた。
二度と自分の手から零れ落ちない様に。
ああ、彼女は気付いている。
ここが楽園ではないこと。
彼らは天使などではないということ。
それでも笑う、彼女は笑うのだ。
彼らの狂気を包み込む様に、彼女はただ微笑みを浮かべこの場所に囚われている。
『何処から来て』
『何処へ行くの』
『全ては誰の夢？』
救わんと差し伸べられた手に気付くには、もう何もかもが遅すぎた。
退廃へと至る幻想、背徳を紡ぎ続ける恋物語。
痛みを抱く為に生まれてくる哀しみ。
「お前は何も心配しなくていい」
オニキスの天使が、彼女の頬を大きな手で包む。
「お前はただ、我々の傍にいてくれればそれで。…さあA、どうかずっと、笑っていておくれ」
幾度となく開かれる扉。
第四の地平線、その楽園の名はエリュシオン。
またの名を、アビス。
『楽園なんて、初めから何処にもありはしなかったのよ』
(ないていたのは、わたしだった)
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