◇ ページ15
そう、ここは楽園なのだ。誰もが憧れ焦がれ、世界で最期を迎えた魂が辿り着くエリュシオン、第四の地平線の果て。
様々な鳥や動物が歌い、美しい花々は咲き誇っては散り枯れる事なくまた咲き誇る。
そして空や風は楽園に抱かれた魂達を歓び祝福する。
少女はいつここに辿り着き、いつからここに在るのかなどもうとうの昔に忘れてしまっていたが、誰よりもこの楽園に在る魂を見続けていたつもりだ。
ここで泣いている者など、少女はただの一度も見たことがなかった。
でも、確かに、何処かで誰かが泣いている。
ふと踵を返し振り返ると、そこにはまた別の2人の天使が立っていた。
アメジストの天使とヘリオライトの天使である。
彼らは少女に近付き、アメジストは右手を、ヘリオライトは左手を取るとまるで仲睦まじい恋人同士の様に指を絡めた。
くすくすと何処か楽しげな2人の笑い声に、少女は徐に口を開き誘われる様に言葉を吐き出した。
『ねえ、かなしみも、くるしみも、』
「そう、ここにはないから」
『しあわせみちあふれるせかい？』
「そう、それが楽園」
「貴女はきっと、悪い夢を見てたんですね」
「夢の中はこことは少し違うからなあ、眠ってしまったんが悪かったんかも」
「そう、楽園で眠ってしまったから」
「見るはずのなかった悪夢を見てしまったのかも」
手招きされる様に、そちらに引っ張られる様に、脳を揺らしじわじわと溶かしていく天使の御言葉。
少女の意識はやがてぼんやりと、段々と、白い霞がかかっていく。
『そう、そうね、らくえんでなくはずないわ』
「そうやね、せやから泣かんといてな」
自由になった少女の両手を包み込む様に、まるで硝子玉を取り扱う様に優しく握りそれを口元に持っていくと緩く唇を押し当てて微笑むルベライトの天使。
『だって、らくえんなんだもの』
「楽園だからこそや」
ふわり、と微睡みを誘う香りと温もりが少女を包んだ。
アクアマリンの天使は凛とした声音とは裏腹に抱き締めた少女の髪に顔を埋め愛おしそうに息を吐き出す。
少女は誘われるがままに、また眠りに身を委ねようかとさえ思った。
それほどまでに天使の温もりは心地良かったのである。
でも。
──ああ、やっぱり、だれかが、ないている。
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