kn. ページ1
不器用な彼の話。
ドンッ！！
嗚呼、拝啓お母様。
私はもしかしたら今日お家に帰れないかもしれません。
自分で言うのもなんだけど、それなりに楽しく真面目に高校生をやってきたつもりだ。
いきなり後ろから声を掛けられたから振り返っただけなのにこんないわゆる足ドンをされるだなんて誰が想像出来ますか、私が一体何をしたというのですか。
あまりにも驚いてそのままずるずると床に座り込みゆっくりと顔を上げると、それはそれは綺麗なご尊顔に嵌っている空色の瞳と目が合った。
黙って真顔で私を見下ろすものだからかたかたと体が恐怖で震えだす、美人の真顔ってこんなに怖いんだ。
よく見なくともこの人が誰だか分かる。学校一のイケメンで学校一の問題児、声が大きくて喧嘩っ早く、それでいて女嫌いだが意外と成績優秀で博識であることとまるで御伽噺の王子様の様な容姿で校内の女子達から絶大な人気を誇っているコネシマくんだ(友人達と話している時の笑顔が堪らないとも友達が言っていた気がする)
もちろんそんな高嶺の花との面識も接点も私にあるはずがない、そんな私がこんな状況に追い込まれているという事は私が知らぬ間に彼の気に障る事をしてしまった以外に理由が思い付かない。
このままでは埒があかない、取り敢えず理由を聞いてみなければ。
『…あの、』
「おい」
『ひっ、はい！？』
被った。
喋るタイミングがだだ被りしてしまった。
掠れ気味のドスの効いた声にこちらの声が上擦ってしまう。
しかし彼はまたもや口を噤み目線を左右に散らすばかりだ、だから埒があかんのやって。
「……A、」
『はい…はい？』
また声を掛けてみるかと口を開いた瞬間名前を呼ばれたので思わず返事をしたがすぐに違和感に気付く。
なんで私の名前を知っているんだ？
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