あの人〜なおみ〜 ページ40
まさか、またいるなんて思わなかった。
ライブ終わりに、しかも控え室にいるなんて。
あの人は、なんとなく好きになれない。
そもそも、この前ALL PASSを持っていたこと自体がまず気に食わなかった。
スタッフでもあれを持てるのは僅かなのに、部外者に、しかも女性に渡すなんて、今まで一度もなかったことだ。
それだけで、三橋の信用をすでに勝ち取っていることが容易にわかる。
そして、それだけじゃない。
ユノとチャンミンも懐いている。
2人は、“ヌナ” “Aさん”と呼んでいた。
私は今だに眞鍋さんなのに。
やっぱり、あの時の写真のせいだ。
自分の行動を後悔する。
あれ以来、ものすごく距離を感じる。
チャンミンが今日ポラロイド写真をほしいと言ったのも、あの過去があるからだろう。
私には渡したくないのだ。
一生懸命、仕事には取り組んでいるつもりだ。
でもまだ、信頼はしてもらえていない。
ユノはともかく、チャンミンは女性と、必要以上に距離を縮めることはまず無い。
女性スタッフへの対応を見ているとわかる。
だからこそ、チャンミンを手に入れたい。
私だけが、チャンミンの特別になりたい。
最初は軽い気持ちだったのに、いつしか本気でそう感じるようになった。
チャンミンが優しく見つめてくれたら、甘く笑いかけてくれたら、どんなに幸せだろう。
そう、あの人が作った広告のように。
あれを見た瞬間、顔の見えない相手の女性に嫉妬した。
あんな表情を引きだしたのは誰なのか。
知りたくてたまらない。
もしチャンミンが、本当にあの相手役に惹かれてしまったら…
そう考えるだけで心がざわつく。
そして、それと同じような嫉妬心を、あのAという人にも感じる。
大丈夫。
私のほうが、あの人よりもチャンミンの近くにいる。
1回だけの仕事で終わる関係ではなく、ツアーを一緒に回り続けるんだから。
私にはまだ時間がある。
信頼も取り戻せるはずだ。
大丈夫。
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作者名：えむ | 作成日時：2017年11月16日 15時
