第5話 一歩 ページ7
ヴィクトルside
どうやら誤解は解けたようだ。
氷の上で幾人もの視線を集め、凛と舞う姿とは裏腹に、Aの内面は複雑で歪だ。
知らず知らずのうちに彼を不安にさせていたのかと思うと、放っておけないと思う一方で、自分がそこまでAをかき乱したのだという仄暗い喜びを感じる。
(まあ、俺がこんな感情を向けているなんて、微塵にも思っていないんだろう?)
最近、この感情の歯止めがきかなくて困る。
気持ちを切り替えるように、深く息を吸い込んだ。
『・・・落ち着いた?』
『ん、ごめん。
僕、あんな子どもみたいなことを言って。』
今頃、羞恥から顔を赤く染めているんだろうが、それを近くで見れないのが残念だ。
『それで、日本に来てくれるかい?』
『・・・それは、僕が決めることじゃない。』
2人の間に沈黙が落ちる。
(またか。
いいや、まだAはあの時から抜け出せていないんだね。)
沈黙では、何も変わらない。
(俺が、そこから連れ出してあげるよ。)
『俺は、Aの意見を聞きたい。
Aは、どうしたいの?』
選択肢すら示さずに、問う。
『僕は、
日本に、行きたい。
今のままじゃ、なれない役があるから。』
芯の通った、力強い声が響いた。
『分かった。
日本で、待ってる。』
思わずほっとした声色が出る。
『なんて言ったけど、実は前もってリチェからお願いされてたんだよねぇ。
「次の大会のために用意した2曲目を滑れるようになるまで、Aを頼む!」ってね?』
ぴしり、と先ほどまでの穏やかな空気が固まった。
『え!?
ちょ、僕を騙したのヴィーチャ!!!』
『騙してないかいないよ、人聞きの悪いことを言うなぁ。』
『そういうことは、最初から言ってよ!
ヴィーチャのいじわる!!』
ブツッと電話が切られた。
「でもやっと、一歩踏み出したね。」
通話終了と表示された画面に、触れない程度のキスを落とした。
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るろまる(プロフ) - フィーアさん、コメントありがとうございます。ノンビリですが更新していきたいと思っています! 感想、とても嬉しかったです! (2017年1月12日 12時) (レス) id: 6d0c896ab0 (このIDを非表示/違反報告)
フィーア - とても面白かったです!!!更新頑張ってください!! (2017年1月9日 17時) (レス) id: 65845fd388 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:るろまる | 作成日時:2016年12月11日 22時