第10話 重圧 ページ12
ユーリside
「君の名前は?」
いつもの俺なら、こんな質問をされたら「ジュニア時代からの俺の華々しい功績を見ていないのか。」と怒るのだろうと他人事のように考える。
心に波風が立たないのは、非の打ち所の無い演技をしておいて、それを鼻にかけるようなそぶりを見せないからだ。
自分がもしあんなにも高レベルの演技を滑り切ることができたなら、周囲に自慢してまわるだろうに。
そう考えると、自分と目の前に立つ卯月Aとの差を自覚せざるをえない。
「ユーリ・プリセツキーだ。」
「君がユーリくんか。
確か、ロシアの妖精って呼ばれてたよね?」
(俺を知っていたのか!)
胸を占めていた劣等感が吹き飛んだ。
「そうだ。
あんたは、『鏡の国の天上人』だっけ?」
「そうだね。
ふふっ。
マスメディアも面白い名称をつけるよね。」
『鏡の国の天上人』
鏡とは、映りこんだものを反射する氷とかけた意味だけではない。
卯月Aが役そのものになる様子を、まるで写し鏡のようだ、という2つの意味を持つ。
また、グランプリファイナルでリンク全体を国に見たて、それを支配する王様を演じたことも影響している。
技術の高さや容姿の美しさが、人間とは思えないとしてそう名付けられた。
(俺には、ふさわしい名だと思うけどな。)
どこが面白いのだろう、と首をひねると、Aは心の中を覗いたようにその笑みを深くした。
「ユーリくんの『妖精』は分かるよ。
外見からしてそう見えるもの。
でも、『天上人』ってまるで僕が人間じゃないみたいでしょう?
僕だってお腹が減れば食べるし、眠ければ寝る、どこにでもいる人間なのにね。」
瞳の中に、呆れと少しの悲しみを見つけて愕然とした。
テレビ画面や写真の向こう側だけでなく、同じ立場の選手の間にも伝わる通り名。
俺たちはその意味を理解した上で、肩の上にのしかかる期待の重みに耐え続けなければならない。
それが、Aの場合は重すぎたのだ。
俺の『ロシアの妖精』とは比べ物にならないほどに。
それを理解した上で、かける言葉が見つからない。
Aは先ほどまでの表情を消し、にこやかに笑った。
「な〜んてね。
別に僕はどう呼ばれようが、僕であることに変わりはないからどうだっていいけど。」
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るろまる(プロフ) - フィーアさん、コメントありがとうございます。ノンビリですが更新していきたいと思っています! 感想、とても嬉しかったです! (2017年1月12日 12時) (レス) id: 6d0c896ab0 (このIDを非表示/違反報告)
フィーア - とても面白かったです!!!更新頑張ってください!! (2017年1月9日 17時) (レス) id: 65845fd388 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:るろまる | 作成日時:2016年12月11日 22時