6話 ページ6
ようやく冷静になってきた夢野 幻太郎は先ほどの男の顔を思い出していた。
夢野『(急いで男の身元を調べなくては…)』
落ち着いた気分がまた煮えくり返りそうになっていたその時、
ーーーーージャボンッッ
背後で大きな水音がした。
振り返った視線の先には、制服のまま
湖の中に飛び込んでいるAがいた。
幻太郎はぎょっとしておもわず大声を出した。
夢野『馬鹿ですか!?何してるんだッッ!!!!?』
しかし、Aからの返事はなく、
さらに、ざぶざぶと水をかき分けるよ
うに奥へ奥へと進んで行く。
浅く見える湖だが、中ほどにいけばいくほどだんだん深みを増しており、ましてや制服を着たままだとなおさら危ない。
しかしAに幻太郎の声は全く聞こえていないようだ。
幻太郎は盛大に舌打ちをすると、上着を脱ぎ去り、急いで湖の中に飛び込んだ。
秋の半ばを過ぎた湖の水温は非常に冷たい。
幻太郎『おい!!!』
Aのいるところまで追いついた幻太郎は、勢い良くAの胴体を自分に引き寄せ、抵抗されずぶ濡れになりながらもなんとか浅瀬まで引き戻した。
なんの反応もないAを振り向かせて怒りに任せた説教でもしてやろうかと思った時………
ーーーーパンッッ
それよりも速く、もの凄い勢いで幻太郎の顔が真横に弾かれる。
Aに頬をはられたことを理解するのに、時間はかからなかった。
突然の衝撃に一瞬驚いたが、すぐにAに何かを言おうとした幻太郎の時間はそのまま停止した。
Aの瞳からは、大粒の涙がこぼれ落ちていた。
引き結ばれた唇は、わなわなと震えている。
幻太郎『…っ!』
幻太郎がAの涙を見るのはこれが初めてであった。
幼い頃から幻太郎に散々いじめられてきたAであったが、Aは今まで一度たりとも幻太郎の前で涙を流したことはなかった。
いつもいつも、Aのきらきらとした大きな瞳が涙に濡れるその日を待っ
ていたというのに、いざはらはらと流
れ落ちるその雫を見ると、幻太郎は驚きのあまり何の言葉も発せない。
Aは乱暴に幻太郎から体を離すと、泣き顔を隠すように俯いた。
A『幻太郎なんて大っ嫌いッッ!!』
震える声そう言い残すと、Aはずぶ濡れの格好もそのままに、
ぱたぱたとその場を走り去りっていった。
やがてその音は聞こえなくなったが、
幻太郎は水浸しのまま、
いつまでも
いつまでも
そこに立ち尽くしていた。
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るうみ - 続きめっちゃ気になります()無理せず頑張って下さい!応援してます (2020年1月6日 23時) (レス) id: d801fe8186 (このIDを非表示/違反報告)
そーか - 続きが楽しみです!頑張って下さいね! (2019年12月31日 23時) (レス) id: 43c04a9725 (このIDを非表示/違反報告)
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作成日時:2019年12月31日 13時