17話 ページ17
Aが自分に微笑むところを見ることも久しぶりで、もちろんこんな風に彼女が自分に抱きついてきたこともなかった。
どこもかしこも柔らかく、
良い香りがするばかりか、
厚い布越しからでもふたつの温かい弾力を感じる。
何年も側にいながら、
いつも彼女に距離を取られるようなことしかしてこなかった幻太郎にとって、なにもかもが初めての感覚だ。
幻太郎はたまらず、Aの体に腕を回し、ぎゅうと抱きしめた。
ふわりとした彼女の髪に鼻を埋め、
息をすると、
優しいシャンプーの香りがする。
心臓が握り潰されるような切なさに襲われる。
全身で彼女の感触を楽しんでいると、さすがに苦しくなったのか、Aがバンバンと幻太郎の腕を叩いた。
幻太郎はその抗議に気づかぬ程夢中で彼女を抱きしめ続けていたが、
堪え兼ねたAは身をよじりながら自力で幻太郎の腕を抜け出した。
A「ぷはっ!」
髪を乱し、苦しそうにはあはあと肩で息を吐くAは、幻太郎の顔色に気づいて慌てたように声を上げる。
A「幻太郎?!大変!!顔が真っ赤…!」
幻太郎は自分でも自覚するほど体温の上昇を感じていた。
Aに指摘されたことでますます顔に血が上る。
夢野「うるさい、こっちを見るな!ちょっと風邪を引いただけです」
もちろんこの熱さは風邪のせいだけではないことはわかっていた。
だが、そう言ってごまかすことにした。
A「風邪!?どうして!?」
夢野「さぁ、寒中水泳でもしたからかもしれないですね〜〜」
A「!」
幻太郎はブレスレットを投げ返されたあの日以来、毎日のようにあの湖に潜っていた。
真冬になってもそれを続けていたため体もついには参ってしまったのだ。
我ながら格好悪いことをしたとため息をつきたくなる。
A「なんでそんなこと…」
Aは戸惑ったような瞳で幻太郎を見つめた。
いつも意地悪ばかりしていた幻太郎が、自分のブレスレットひとつになぜそこまでしたのかわからなかったからだ。
夢野「…それは、俺とお前の約束のモノでしょ」
幻太郎は少しの沈黙の後、そっぽを向いたままかすかな声でそう言った。
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るうみ - 続きめっちゃ気になります()無理せず頑張って下さい!応援してます (2020年1月6日 23時) (レス) id: d801fe8186 (このIDを非表示/違反報告)
そーか - 続きが楽しみです!頑張って下さいね! (2019年12月31日 23時) (レス) id: 43c04a9725 (このIDを非表示/違反報告)
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作成日時:2019年12月31日 13時