第35話 ページ35
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Aの顔を見つめたままで動こうとしない青年に不信感を抱き、Aは眉間に皺を寄せた。青年は綺麗な顔を破顔させて顔の前で両手を振った。
「あ、違うんです。随分落ち込んでたみたいだったから」
見ず知らずの人にも心配されてしまうくらいAは憔悴していたのだ。
誰かに言ってしまえば楽になるだろうか、Aは口を開いた。その気配を察したのか、青年は肩から重そうな荷物を下ろし防波堤に立てかけた。声を発したのはAが先だった。
「テニスやってるんですか?」
「え、よく気づきましたね…あ、これか」
黒をベースに黄色のラインが特徴的なラケットバッグを軽く叩いて青年は微笑んだ。随分年季の入ったそれからは不思議と品格と厳格さを感じた。
何回か言葉を交わすうちにお互いが同級生だということを知ったAは座り直した。
「実は、テニスすごい上手だったりして…」
悪戯にAが言えば、青年は「嗜む程度だよ」と再度微笑んだ。
嗜む程度は絶対に嗜む程度ではない。ふうん、とAは相槌してから綺麗な横顔を盗み見た。藍色の髪の毛は少しウェーブがかっていた。
無意識だった。Aは、あのさ、と呟いていた。
「君にもし好きな人がいて」
何の解決にもならない事は分かっていた。それでも消化不良の胃もたれには、薬が必要だった。
「その好きな人は他の人のことを見ていたとしたら」
どうしますか?
Aは隣に腰かけた青年を見つめた。
顔の横で揺れた髪の毛越しに見えた横顔は、丸みのある越前のものとは違っていた。
海風が冷たすぎた。
Aの言葉を反芻する青年を横目に、Aはバレないように身震いをした。そうだな、青年は短く答えた。
「それの確証は?」
Aは口篭った。確証、そんなものは無かった。勘、女の勘だ。
「ない」
「俺なら、好きな人に好きって言い続けるよ」
「なんで」
「まだ何も始まってないじゃないか」
今度は、青年の頬を街灯が照らした。自信満々に微笑んだ青年の顔がどこか越前に似ていた。動きを止めたAを不思議に思ったのか、「どうかした?」と問いかける青年に越前を重ねている自分がいることに動揺した。
そう、素直に動揺した。
「確かに、」
「負けてられないだろう?」
そんな奴に、と笑った青年は栗色の髪の毛を弄ぶ腐れ縁の彼に似ていた。
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福原(プロフ) - ぱーぷる姫さん» ありがとうございます❤︎ぱーぷる姫さんにそう言っていただけて光栄です( X_X ) (2月24日 1時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
ぱーぷる姫(プロフ) - 涙が溢れ出ました!あまりに綺麗で切ない表現に何度も読み返しました。ありがとうございました! (2月18日 15時) (レス) id: 4d7ac923b9 (このIDを非表示/違反報告)
福原(プロフ) - 幸絵さん» ご感想ありがとうございます(;_;)またどこかで2人が会える日がくることを願っています、、リョーマ!失恋組!初遭遇です!やはり初恋は実らないものですね、、 (2021年11月10日 9時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
幸絵(プロフ) - 完結おめでとうございます!ついついヒロインの先輩と結ばれて欲しい〜って思ってしまいました。話は変わりますが、『劇場版リョーマ!』私も失恋した気分になりました! (2021年11月10日 6時) (レス) id: 4696a5fece (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:福原 | 作成日時:2021年9月17日 0時