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第31話 ページ31

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そうだった、全てはここから始まっていたんだ。思い出すのが遅くなってしまった。




冷えきったココアを手に越前を見つめたAに越前は声を詰まらせた。


ココアの蓋だって自分で空けられた。彼が空けたからこのココアは私にとって呪いになってしまった。今までも、これからも、私は一生触ることができない。


越前の唇が動いた。越前の瞳に映る自分でさえも憎く思えた。



「A先輩」



越前がAの名前を呼んだ。Aは顔を上げた。


「ん、」

「大丈夫?」


何が?という言葉をAは飲み込んだ。言葉が出てこなかった、という表現が正しかったが。



夢から覚めてしまったのだ。

錆びた思い出は煌びやかで、触れてしまえば壊れてしまう程脆かった。いっその事、壊してしまえばよかったのだろうか。



Aは愚かで、それでいて何よりもアイデンティティを失うことを恐れた未熟な子どもだった。心は独立せず、脳にあった。今なら彼に追いつけるだろうか。答えはNOだった。


Aの長い睫毛が、頬に影を作った。泣いてしまえば何かが変わったのだろうか。目を赤くしながら季節を彷徨し続ける自分を目の前の少年は受け入れてくれるのだろうか。


生憎、Aは自分のそれに価値を見出すことは出来なかった。



「A先輩」



越前の凛とした声がAの耳を擽った。予鈴が鳴ってからもう5分は過ぎただろう。あぁ、2人して地獄行きだ。



「俺と」



越前の穢れを知らない真っ直ぐな瞳がAを射抜いた。


彼の瞳は金色に輝いていた。獲物を狩る狼のようなその瞳の美しさにAは身震いした。私が月なら貴方は太陽だと、よく言ったものだ。彼が太陽なら、誰が月になるのだろう。



私は何も望まなかった。



何も望まないから、このままで居させてくれればよかったのに。





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福原(プロフ) - ぱーぷる姫さん» ありがとうございます‪‪❤︎‬ぱーぷる姫さんにそう言っていただけて光栄です( X_X ) (2月24日 1時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
ぱーぷる姫(プロフ) - 涙が溢れ出ました!あまりに綺麗で切ない表現に何度も読み返しました。ありがとうございました! (2月18日 15時) (レス) id: 4d7ac923b9 (このIDを非表示/違反報告)
福原(プロフ) - 幸絵さん» ご感想ありがとうございます(;_;)またどこかで2人が会える日がくることを願っています、、リョーマ!失恋組!初遭遇です!やはり初恋は実らないものですね、、 (2021年11月10日 9時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
幸絵(プロフ) - 完結おめでとうございます!ついついヒロインの先輩と結ばれて欲しい〜って思ってしまいました。話は変わりますが、『劇場版リョーマ!』私も失恋した気分になりました! (2021年11月10日 6時) (レス) id: 4696a5fece (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:福原 | 作成日時:2021年9月17日 0時

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