第29話 ページ29
.
.
秋の気温が肌に馴染んだ頃、喉の渇きを覚えたAは自動販売機へと足を向けていた。紺色のカーディガンが視界を染める季節がやってきたようだった。
あれだけ文句を言っていた制服でさえも2年も身につければ愛着が湧くものだ。可愛く思えてきた自分が面白くて笑った。
Aは胸ポケットから手鏡を取りだし自分の前髪を整えた。湿気もなくなり、前髪が安定してきた。その代わり、手先の乾燥が気になり始めてたが。
寒くなると、1人でいるのが怖くなる。
だからなのか、昼休みの騒音がAには心地良かった。1人ではないと感じることが出来て安堵の息を吐いた。
息はまだ、白くならなかった。
.
自動販売機のあたたかい、を見てAはハッとした。それは本格的な秋の訪れの証左を示していた。
Aは寒さで白くなった指先でココアのボタンを押したが、目当てのボタンが光らなかった。
カチ、カチ。
ボタンを押す音だけが虚しく響いた。
「ん?」
ココアの値段は140円、投入金が表示されていた金額は130円。そう、10円足りなかったのだ。
うわ、と声が漏れそうになったのを抑えてAは財布を漁ったが、結局、酸化した10円の姿は見当たらなかった。
思い返してみれば、今朝Aは申し訳なさを抱えながらコンビニで大量の10円玉を消費していた。ツケが回ってきたようで眉間に皺が寄った。
恐ろしいくらい自然に、背後から素早く10円玉を差し込まれた。
カラン、と情けない音と共にAは、背後を振り返った。
「足りた?」
そう微笑んだ越前に、Aは動きを止め越前の顔を凝視するしかなかった。
.
.
89人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「テニスの王子様」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
福原(プロフ) - ぱーぷる姫さん» ありがとうございます❤︎ぱーぷる姫さんにそう言っていただけて光栄です( X_X ) (2月24日 1時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
ぱーぷる姫(プロフ) - 涙が溢れ出ました!あまりに綺麗で切ない表現に何度も読み返しました。ありがとうございました! (2月18日 15時) (レス) id: 4d7ac923b9 (このIDを非表示/違反報告)
福原(プロフ) - 幸絵さん» ご感想ありがとうございます(;_;)またどこかで2人が会える日がくることを願っています、、リョーマ!失恋組!初遭遇です!やはり初恋は実らないものですね、、 (2021年11月10日 9時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
幸絵(プロフ) - 完結おめでとうございます!ついついヒロインの先輩と結ばれて欲しい〜って思ってしまいました。話は変わりますが、『劇場版リョーマ!』私も失恋した気分になりました! (2021年11月10日 6時) (レス) id: 4696a5fece (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:福原 | 作成日時:2021年9月17日 0時