第18話 ページ18
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偶然が重なればそれは必然になる、必然が重なればそれは運命になる。運命など、この世には存在しない。
「先輩は部活入ってないの?」
越前は海から視線を逸らさずにAに問いかけた。波音を遮らないように、静謐さを含んだ越前の声がAの耳を擽った。
「うん」
生憎、Aは高等部に進級してから部活に入ろうという意思を持ち合わせてはいなかった。
この選択をしたことに後悔はないが、時折部活動に励む生徒達を見て羨望の眼差しを向けていたことは否定できない。
防波堤に座ろうと腰を屈めたAに越前がストップを掛けた。
潮風がAの頬を撫でた。
これ敷いて、と出されたのは皺のついたタオルだった。
恐らく練習試合の際に使おうと持ってきたのだろう、出番はなかったようだがテニスバックに仕舞われていた形跡がその証左だった。
「使ってないから」
「でも」
「いいから」
Aは越前の2つ上だ。そして、越前はAの2つ下だ。
越前の気遣いは間違ってはいないが、Aは越前何の関係もないただの2つ学年が上の女子生徒だった。白いワンピースが影を作った。
越前と目が合った。
譲らない、とでも言うような視線に押し負けたAはぎこちなく微笑んで越前のタオルを有難く頂戴することにした。
タオルを申し訳なさげに敷いてその上に腰を下ろしたAは越前に小さく謝った。
「洗って返すね」
「いい、気にしないで」
越前の必要最低限かのような返答は傍から見たら冷たい態度に見えていただろう。少なからずAはその言葉に温かみがあるのを理解していた。
出会ってから、1つ季節が通り過ぎていた。
防波堤に座るAの斜め後ろに立つ越前は、Aの風に揺れる髪の毛を眺めていた。未だに汗ばむ陽気は続いていた。
Aの項に、汗が一筋流れた。
「テニス部大変?」
Aの女性にしては少し低い声に越前は意識を戻した。
まぁ、と煮え切らない返事をした越前にAは微笑んだ。
さすがのAでも越前の所属するテニス部が全国区なことは知っていた、勿論越前が青学の柱だということも。隠す必要もなければ言う必要もない、Aはどこか満足気だった。
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福原(プロフ) - ぱーぷる姫さん» ありがとうございます❤︎ぱーぷる姫さんにそう言っていただけて光栄です( X_X ) (2月24日 1時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
ぱーぷる姫(プロフ) - 涙が溢れ出ました!あまりに綺麗で切ない表現に何度も読み返しました。ありがとうございました! (2月18日 15時) (レス) id: 4d7ac923b9 (このIDを非表示/違反報告)
福原(プロフ) - 幸絵さん» ご感想ありがとうございます(;_;)またどこかで2人が会える日がくることを願っています、、リョーマ!失恋組!初遭遇です!やはり初恋は実らないものですね、、 (2021年11月10日 9時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
幸絵(プロフ) - 完結おめでとうございます!ついついヒロインの先輩と結ばれて欲しい〜って思ってしまいました。話は変わりますが、『劇場版リョーマ!』私も失恋した気分になりました! (2021年11月10日 6時) (レス) id: 4696a5fece (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:福原 | 作成日時:2021年9月17日 0時